
「ハッジ」とは、イスラム教徒が生涯に少なくとも一度は果たすべきとされる、サウジアラビアの聖地メッカへの巡礼のことです。イスラム教の五行(信仰の五つの柱)の一つに数えられており、体力や経済的事情などで巡礼が困難な場合を除き、すべてのムスリムにとって重要な宗教的義務とされています。
カアバと黒石
巡礼の中心となるのは、メッカの大モスクにある立方体の建造物「カアバ」です。その一角には「黒石(くろいし)」が埋め込まれており、伝承によれば、この石は天使ガブリエル(ジブリール)によってアブラハム(イブラーヒーム)に授けられたものと信じられています。
ハッジの時期と期間
ハッジは約6日間にわたって行われ、イスラム暦の最後の月である「ズー・ル=ヒッジャ月」に実施されます。巡礼期間中は、毎日欠かさず祈りを捧げることが求められます。イスラム暦は太陰暦のため、ハッジの時期は毎年西暦で約11日ずつ早まっていくのも特徴です。
巡礼の流れ
1. カアバの周囲を7回巡る(タワーフ)
巡礼者はまず、カアバの周りを反時計回りに7回巡ります。この儀式は「タワーフ」と呼ばれ、ハッジの象徴的な光景として知られています。
2. ミナへ移動
翌日、巡礼者はメッカ近郊のミナに移動し、巡礼のハイライトに備えます。
3. アラファート山での祈り
巡礼最大の核心となるのが、アラファート山での祈りです。預言者ムハンマドが最後の説教を行ったとされるこの場所で、巡礼者たちは一日中祈りを捧げます。
4. 悪魔への石投げ(ラムィー)
その後、群衆は悪魔を象徴する3本の柱がある場所へ向かいます。巡礼者はそれぞれの柱に向かって7個ずつの小石を投げつけます。この小石は、できればアラファート山で拾ったものを使うのが望ましいとされています。
犠牲祭(イード・アル=アドハー)
同じ日には犠牲の儀式も執り行われます。個人の場合は羊1頭、6人程度のグループの場合は牛またはラクダ1頭を共同で捧げるのが慣例です。この犠牲祭は世界中のイスラム教徒が共に祝う「イード・アル=アドハー」として知られる重要な祝祭日でもあります。
続く3日間は「タシュリークの日々」と呼ばれ、巡礼者は犠牲肉を食べて旅の疲れを癒し、食料品を購入します。男性は髪を剃り(または短く切り)、全員が再びカアバの周りを巡る別れのタワーフを行い、ハッジは完了します。
まとめ
ハッジは単なる旅行ではなく、信仰心を深める一生に一度の精神的な旅です。毎年数百万人規模のムスリムが世界中からメッカに集まり、同じ服を着て平等に祈りを捧げる姿は、イスラム教の団結力を象徴する光景となっています。