歴史物語

ポーランド裁判所がホロコースト研究者2人に謝罪命令――歴史研究の自由をめぐる論争に

ポーランド・ワルシャワの裁判所は9日、ホロコーストに関する著書の記述に「不正確さ」があるとして、著名な歴史学者2人に謝罪するよう命じる判決を下しました。この決定は、同国における学術研究の自由をめぐる激しい議論を巻き起こしています。

問題となったのは占領期ポーランドを描いた2巻の研究書

謝罪を命じられたのは、アウシュヴィッツ国際評議会会長のバルバラ・エンゲルキン教授と、カナダ・オタワ大学のヤン・グラボフスキ教授。両氏は『終わりなき夜――占領下ポーランドの諸県におけるユダヤ人の運命』と題する2巻からなる研究書の共著者です。

同書は第二次世界大戦中、ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)にポーランド人が加担した事例をいくつか取り上げており、これが訴訟の発端となりました。

村長の親族が起こした名誉毀損訴訟

BBCの報道によると、訴訟を起こしたのは、ドイツ占領下でマリノヴォ村の村長を務めたエドヴァルト・マリノフスキ氏の81歳の姪(めい)、フィロメナ・レシチンスカさんです。同書には、マリノフスキ氏がユダヤ人をナチス・ドイツ側に密告し、虐殺に関与したとされる件について簡潔な言及がありました。

この訴訟は、ポーランド人がユダヤ人殺害に関与したという主張に反対する団体「ポーランド反中傷連盟」の支援を受けていました。

判決の内容

エヴァ・ヨンチク裁判官は、マリノフスキ氏の虐殺への関与に関する主張は「不正確」だと認定し、原告には死者を偲ぶ権利があると認めました。その一方で、2万2000ユーロ超の賠償金の支払い請求については、「さらなる調査を萎縮させる懸念がある」として退けました。

研究者側は控訴の方針

両研究者は控訴する意向を表明しています。グラボフスキ教授は地元紙ガゼタ・ヴィボルチャに対し、「裁判所の決定は尊重するが、受け入れることはできない。控訴審では我々の主張が考慮されることを望む」と述べました。

ナショナリズム高揚の中で行われた裁判

今回の裁判は、民族主義的な右派勢力の台頭以降、強まった不信感の中で行われました。右派は国家の歴史の書き換えや、ドイツ占領期におけるポーランド人の行動をめぐる調査の抑制を図っているとの疑いが指摘されています。

国際社会からの強い批判

エルサレムのホロコースト記念館(ヤド・ヴァシェム)をはじめ、欧米両地域の多くのユダヤ人団体や研究者が、歴史家への法的措置を強く非難する声明を発表しました。世界ユダヤ人大会議は今回の判決に「驚き」を表明しています。

占領下ポーランドの複雑な実像

1939年から1945年にかけて、ポーランドでは600万人が殺害されました。うち300万人はユダヤ人でした。

ナチス占領下のポーランドでは、ユダヤ人に水一杯を差し出すことさえドイツ当局によって死刑の対象となる厳しい状況にありました。ポーランド人のユダヤ人隣人への態度は一様ではなく、歴史家たちの記録には無関心や、時に残酷な対応を示した事例も残されています。

一方で、戦時中にユダヤ人を救った人物に贈られる「諸国民の中の正義の人」の称号については、ポーランドは他のどの国よりも多くの受章者を輩出しており、7000人以上が授与されています。