19世紀アメリカの奴隷制度廃止論者(アボリショニスト)たちは、奴隷制度を単なる一つの社会制度としてではなく、撤廃されるべき深刻な問題として捉えていました。彼らの見方は大きく分けて以下の4つの観点から語ることができます。
1. 根絶すべき道徳的な悪
廃止論者にとって、奴隷制度は経済的な仕組みである以上に、個人が生まれながらに持つ譲渡できない権利を侵害する「罪」でした。彼らは、奴隷所有者が奴隷たちから生命・自由・幸福を追求する権利を奪い、人間としてではなく財産のように扱っていると強く非難しました。奴隷制度は道徳的に許容できない悪であり、徹底的に根絶されなければならないと信じていたのです。
2. 共和国への脅威
また、奴隷制度は民主主義や個人の自由といった建国の理念と根本的に相容れないものと考えられていました。廃止論者たちは、奴隷制が特権的な支配層という危険な貴族階級を生み出し、一般市民の利益と次第に対立していくと警告しました。さらに、「自由と平等」を掲げる合衆国に奴隷制度が存在すること自体が、国が掲げる理想を自ら裏切る偽善にほかならないと訴えたのです。
3. 経済発展の障害
経済の面でも、奴隷制度は非効率な体制であり、南部ひいては国全体の発展を妨げていると論じられました。実際、奴隷州は自由州に比べて経済的に立ち遅れており、廃止論者たちはこの格差の原因こそが奴隷制度にあると指摘しました。自由な労働市場に基づく経済こそが、持続可能な繁栄をもたらすという考え方です。
4. 社会的対立の火種
最後に、奴隷制度は北部と南部の緊張を生む最大の要因であり、放置すれば内戦にまで発展しかねないと恐れられていました。廃止論者たちは、奴隷制度を過去の時代の危険な遺物とみなし、より公正で人道的な新しい社会体制へと置き換えることが国家の平和と未来のために不可欠だと主張したのです。
このように奴隷制度廃止論者は、道徳・政治・経済・社会という多角的な視点から奴隷制度の問題性を訴え、やがて南北戦争と奴隷解放へとつながる大きな潮流を形成していきました。