スペインでは「スター裁判官」や「メディアに登場する裁判官」という呼び方がすっかり定着している。しかし、法曹界に身を置く者が本当に誇りに思い、学ぶべき相手は、そうした華やかな肩書きの持ち主ではなく、多くの国で法律家の守護聖人とされる聖イヴォ(サン・イヴォ、イヴ・エロリ)ではないだろうか。
「貧者の代弁者」と呼ばれた聖イヴォとは
聖イヴォ(1253年〜1303年)は、フランス・ブルターニュ地方ケルマルタン出身の司祭であり裁判官。パリとオルレアンで法学を学び、ブルターニュの教会裁判所などで判事を務めました。職務においては常に公平・公正を貫き、私生活では自らのすべてを最も困窮した人々のために捧げたことで、存命中から広く尊敬と崇敬を集めていました。「貧者の代弁者」とも呼ばれ、1347年に列聖され、今日でも多くの国で弁護士や法律家の守護聖人とされています(スペインでは司法府付弁護士会の守護聖人)。記念日は命日の5月19日です。
「匂いの代金は音で受け取れ」――伝説の判決
聖イヴォには、その人物像を象徴するような有名な逸話が残されています。
ある日、彼は一人の乞食を裁くことになりました。罪状は、裕福な家の窓から身を乗り出し、鍋で煮込まれていたシチューの匂いを嗅いだというもの。今では考えられないような訴えですが、当時はこれが処罰の対象になり得たのです。
聖イヴォは立派な裁判官らしく双方の言い分に耳を傾け、次のような判決を下しました。
乞食は、手持ちの唯一のコインを匂いの代金として支払うべし――そこで、貧しい男はしぶしぶその一枚を差し出しました(これが司法というものか、と思いたくなるところですが)。すると聖イヴォはコインを受け取り、それを鳴らしてこう告げたのです。
「この男はあなたのシチューの匂いを嗅いだ罪で有罪とした。ゆえに、あなたはその賠償金の音を聞いて満足するがよい」
そして、コインを乞食に返したのです。
匂いを嗅いだだけなら、代金もその音だけで十分だ――原告の主張を理屈の上では認めながら、実態としては貧者を救う。この機知に富んだ判決こそ、真の公平さと正義への愛情の表れといえるでしょう。
現代に求められるのは、どちらの裁判官か
こうした判決を耳にすると、教育的主義での指導で知られるグラナダの少年判事、エミリオ・カラタユド氏の姿が思い浮かびます。法の字義通りの適用ではなく、人間味あふれる裁量によって正義を実現する裁判官たち。
メディアを賑わせる「スター裁判官」よりも、聖イヴォやカラタユドのような裁判官が一人でも多く育つことを願ってやみません。
出典:「エボリ公妃の継ぎ布(El remiendo de la Princesa de Éboli)」Mªピラール・ケラルト・デル・イエロ 著
