イングランド王ヘンリー8世(在位1509年~1547年)がシャワーを浴びていたという記録は一切ありません。そもそも、私たちが知る「シャワー」という概念そのものが、16世紀のイングランドには存在しなかったのです。
シャワーが登場するのはずっと後の時代
現代のようなシャワーの仕組みが考案されたのは18世紀以降のことです。テューダー朝期には水道設備も給湯装置もなく、蛇口をひねればお湯が出るような環境は、王といえども手に入りませんでした。
では、ヘンリー8世はどうやって入浴していたのか?
当時の入浴は、木製の樽や桶にお湯を張って行うのが一般的でした。使用人が大量の水を鍋で沸かし、浴槽まで運んで適温に調整していたため、膨大な労力と燃料が必要でした。そのため入浴は特別な行事であり、日常的に行われるものではありませんでした。
興味深いことに、ヘンリー8世は当時としては珍しく入浴を好んだ王として知られています。ハンプトン・コート宮殿には、彼のために専用の浴室が設けられていた記録が残っており、石造りの浴槽を備えたこの設備は、当時のヨーロッパでも屈指のものでした。
入浴が少なかった理由
テューダー朝の人々が入浴を控えめにしていた背景には、当時の医学観があります。「水が肌の毛穴から病気を体内に侵入させる」と信じられていたため、特にペストなどの疫病流行時には湯浴みを避けることが推奨されていました。さらに梅毒の流行により公共浴場への警戒心が強まり、浴場文化は次第に衰退していきました。
入浴以外の衛生習慣
入浴の代わりに、人々は次のような方法で身だしなみを整えていました。
- リネンの下着: 白いリネンのシャツをこまめに着替え、皮脂や汗を吸収させて清潔を保つと考えられていました。
- 部分洗い: 手・顔・首などを毎日洗う習慣は広く浸透していました。
- 香りで補う: 香水や、香料を詰めた「ポマンダー」を携帯し、臭いを消していました。
- 衣類の手入れ: 衣類の燻蒸(くんじょう)なども定期的に行われていました。
まとめ
ヘンリー8世の時代にシャワーは存在せず、王といえども木製の浴槽にお湯を張って入浴するしかありませんでした。とはいえ、専用の浴室を所有していたヘンリー8世は、当時の衛生環境ではかなり恵まれた部類に入ります。現代の私たちが当たり前とするシャワー文化が、実は歴史の浅いものであることを物語るエピソードと言えるでしょう。