トロイ戦争は、紀元前1300年頃に始まった青銅器時代の戦争で、ギリシャ勢とトロイア勢の間で約10年間にわたって戦われたと伝えられています。
この戦いは二つの叙事詩によって後世に語り継がれました。戦闘の経緯を描いた『イリアス』と、英雄オデュッセウスの帰郷の旅を描いた『オデュッセイア』です。いずれもギリシャの詩人ホメロスの作とされています。
概要
考古学的な調査結果によれば、トロイアは現在のトルコ西部に位置していたと考えられています。
開戦のきっかけとなったのは、スパルタ王妃ヘレネーの略奪(あるいは駆け落ち)事件でした。ヘレネーはトロイアの王子パリスとともに去ってしまったのです。この事態に憤慨したスパルタ王メネラオスは、トロイア包囲を決断します。
メネラオスは兄にあたるミケーネ王アガメムノンを説得し、王妃奪還の大遠征を率いてもらうことに成功しました。
こうしてアキレウス、オデュッセウス、ネストール、アイアースといった英雄たちがメネラオスと共に参陣し、千隻の船団に支えられた遠征が始まりました。
エーゲ海を渡ったギリシャ軍は、その後10年間にわたりトロイアを包囲し続けることになります。
トロイの木馬

トロイの木馬を表現したイラスト
戦争に終止符を打ったのは、敵地で仕掛けられた前代未聞の策略でした。オデュッセウスの発案により、ギリシャ軍は巨大な木馬を建造します。
彼らはこの木馬を和平の贈り物としてトロイア人に捧げ、荷物をまとめて帰国するふりを装いました。ところが木馬の中には、ギリシャ軍きっての精鋭たちが潜んでいたのです。
和平の申し出を受け入れたトロイア人は城門を開き、「贈り物」を城壁の内側へと引き入れました。
しかし夜になると、木馬の中に隠れていた兵士たちは姿を現し、城外で待ち構えていた味方の大軍のために門を開放したのです。
ギリシャ軍は街を壊滅させ、勝利を宣言して10年に及ぶ戦争を終わらせました。この逸話はやがて「ギリシャ人の贈り物」という表現の由来となりました。
ヘレネー王妃はメネラオスのもとへ戻りますが、長年の戦争と混乱に対する報復として、彼は怒りのままに王妃を追放したと伝えられます。
一方、ギリシャ有数の智将オデュッセウスの帰還の道のりは決して順風満帆ではなく、その数々の冒険は『オデュッセイア』に描かれています。同作品では、戦争中の重要なエピソードも回想されます。
『イリアス』と『オデュッセイア』
ホメロス作とされる『イリアス』と『オデュッセイア』は、それぞれ紀元前750年頃、紀元前725年頃に成立したと考えられています。両作品は、戦争の後も何世紀にもわたって受け継がれてきた口承文学の伝統から生まれたものです。
木馬の活用をはじめとする主要なエピソードは、「叙事詩環」と呼ばれる物語の型に沿って構成されています。
また、トロイ戦争をめぐるイメージは、紀元前1世紀のローマ詩人ウェルギリウスが『アエネイス』を著す際の着想源ともなりました。
『イリアス』と『オデュッセイア』について、さらに詳しく見ていきましょう。
アキレウス
アキレウスは『イリアス』の中心人物であり、ギリシャの伝承においては、若くして戦場で果てる運命を負った半神として描かれています。
息子の運命を案じた母テティスは、赤ん坊だったアキレウスを冥府の川とも呼ばれるステュクス川に浸し、不死身の体にしようとしました。
しかし、この儀式は完全なものではありませんでした。母親が握っていたかかとの部分だけは水に触れず、唯一の弱点として残ってしまいます。人の最も脆い部分を指す「アキレス腱」という表現は、ここに由来するのです。

クリストフ・ヴェリエらによる彫刻『瀕死のアキレウス』(1683年)
テティスはさらに別の手段で息子の命を守ろうとし、彼を少女として育てます。しかしこの目論見も徒労に終わり、アキレウスの力なくしては戦勝はあり得ないと悟ったオデュッセウスによって、スキュロス島の女性たちの中から見破られてしまいました。
そして予言どおり、アキレウスは戦場でかかとに毒矢を受け、若くしてこの世を去ります。ただしホメロスの記述が伝えるように、彼は勇敢で忠義に厚い戦士であることを示し切ってからの死でした。
トロイ戦争は実在したのか?

トロイアの都市復元模型
トロイ戦争は本当に起こった出来事なのでしょうか。それとも、神話的伝説の集合体にすぎないのでしょうか。
長年、多くの研究者はこれを美しい創作にすぎないとみなしてきました。しかし近年の研究では、ギリシャ人とアナトリア地方の諸民族との間に実際の紛争が存在したことが裏付けられつつあります。
とはいえ、同一地域に暮らしていたヒッタイトに関する歴史資料が乏しいこともあり、この説には依然として疑問の声があります。
このような状況のため、トロイ戦争の歴史的真実性は今なお確定していないのが現状です。
トロイ戦争を描いた映画
トロイ戦争は、何世紀にもわたって数多くの芸術作品に霊感を与えてきました。映画の誕生以降は、複数の監督がそれぞれの視点でこの戦いを銀幕に描いています。
- 『ヘレン・オブ・トロイ』(ロバート・ワイズ監督、1956年)
- 『トロイアの女たち』(ミハリス・カコヤニス監督、1971年)
- 『トロイ』(ウォルフガング・ペーターゼン監督、2004年)
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