スペイン・ルネサンスは、イタリア・ルネサンスに匹敵するほどの勢いをもって展開しました。なかでも文学は、ヨーロッパの他のどの国にも比肩しない輝きを放ちました。さらに絵画や建築の分野においても、独創性あふれる流派が次々と生まれ、芸術全体が大きく花開いたのです。
ルネサンスはヨーロッパ全土に大きな波及効果をもたらした文化現象でした。イギリスでは悲劇・喜劇の名手ウィリアム・シェイクスピアが文才を輝かせ、ポルトガルではルイス・デ・カモンイスが、ヴァスコ・ダ・ガマに代表されるポルトガル人の偉業を讃えた叙事詩『ルジアダス』を著しました。しかしその中でとりわけ際立っていたのが、強力な文化運動を展開したスペインだったのです。
文学の黄金世紀(シグロ・デ・オロ)
16世紀のスペイン文学は、名だたる作家や詩人が続々と登場したことから「黄金世紀」と呼ばれています。その代表的な人物を紹介しましょう。
フライ・ルイス・デ・レオン(1527年頃〜1591年)
本名ルイス・ポンセ・デ・レオン。ラテン詩人ホラティウスに倣いながら、師をしのぐ霊感をもって壮麗な叙情詩を書きました。代表作には『田園生活の頌歌』『音楽の頌歌』『主の昇天の頌歌』などがあります。ソロモンの『雅歌』を翻訳したことを理由に異端審問所へ訴えられ、長期間投獄されました。
釈放された後、恨みを抱く素振りも見せずに講義を再開したとき、誰もが怒りをぶつけるだろうと予想していた彼が口にしたのは、ただ一言「昨日の続きから始めましょう……」でした。この一言こそ、彼の精神の気高さと高潔さを雄弁に物語る逸話として今も語り継がれています。
ミゲル・デ・セルバンテス(1547〜1616)
世界文学屈指の巨匠です。代表作『ドン・キホーテ』には、楽観主義者のドン・キホーテと悲観主義者のサンチョ・パンサという正反対の二人が登場します。これは、人間の精神の中で相反する二つの力が共存し、均衡を保っていることの暗示といえるでしょう。また『模範小説集』と呼ばれる一連の中編小説も傑作で、伝統的な筆致で描かれた風俗短編の連なりが魅力です。セルバンテスの著作はスペイン語に柔軟性と優雅さをもたらし、無数の新しい表現を生み出して、言語そのものを豊かにしました。
ロペ・デ・ベガ(1562〜1635)
精力的かつ多産な劇作家です。代表作には『セビーリャの星』『最良の判事は王』『羊泉村(フエンテオベフーナ)』などがあり、いずれも社会的色彩が濃く、巧みに構成された興味深い筋立てと、テンポよく展開する場面転換によって観客を魅了します。
ペドロ・カルデロン・デ・ラ・バルカ(1600〜1681)
哲学的・社会的主題を扱う戯曲で名を馳せた劇作家です。最高傑作は『人生は夢』で、ほかにも道徳的な教訓を含む『サラメアの村長』『驚異の魔術師』『名誉の医師』などの作品を残しました。
このほか、ティルソ・デ・モリーナ(『セビーリャの色事師』で、恋に身を持ち崩して改めようとしないドン・ファン像を創造)、フランシスコ・デ・ケベード(『夢』『大守銭奴』などで知られるユーモアと風刺の名手)、ルイス・デ・ゴンゴーラ・イ・アルゴーテ(近代詩の先駆者で『孤独』『ポリフェモス』の作者)も特筆すべき存在です。
絵画 ― 五人の巨匠
スペイン・ルネサンス絵画には、第一級の巨匠が五人登場します。ディエゴ・ベラスケス、バルトロメ・エステバン・ムリーリョ、ホセ・デ・リベラ、フランシスコ・デ・スルバラン、そしてドメニコス・テオトコプーロス(エル・グレコ)です。
ベラスケス
肖像画と構成的な大画面によって名声を確立しました。外来の影響にとらわれない気質と、解釈のニュアンスに富んだ表現が特徴です。美術館で最も人々を魅了する作品には、「ブレダの開城(槍)」——フランドル戦争におけるブレダの降伏を描いた大作、キリストの磔刑図、火の神の突然の出現に驚く鍛冶場を描いた神話画「ウルカヌスの鍛冶場」、そして優美な侍女たちを描き出した「ラス・メニーナス」があります。1599年にセビーリャに生まれ、1660年にマドリードで亡くなりました。
ムリーリョ
アンダルシア出身の優れた画家で、ラファエロ・サンツィオの画風に学びました。作品のほとんどが宗教画で、甘美な表情をたたえた多数の聖母像は各国の美術館が獲得を競うほどの人気です。一方で、実在のモデルを用いて描いたため、聖母像に世俗的な雰囲気が漂うとの指摘もあります。
リベラ
イタリアでは「スパニョレット」と呼ばれた画家です。ミケランジェロやコレッジョに私淑したとされ、代表作に『十字架からの降下』や『聖バルトロメオの殉教』があります。
スルバラン
強烈な印象を与える画面づくりで知られる画家です。評価の高い作品に『聖トマス』『聖ペテロの悔悟』『ヘラクレスの功業』などがあります。
エル・グレコ
本名ドメニコス・テオトコプーロス。スペイン・ルネサンス最大の創造的画家で、細長く引き伸ばされた人体表現と力強い印象派的な筆致からなる、唯一無二の画風で知られます。エル・グレコは自然をありのままに模写することは決してなく、常に自らの解釈を加え、独自の色彩と形の捉え方を画面に映そうとしました。壁画、小品の油彩、宗教的な寓意画などを手がけ、代表作には『オルガス伯の埋葬』『胸に手を当てた騎士』『フェリペ2世の夢』『聖ペテロ』などがあります。
建築 ― 四つの様式
16世紀のスペインには、価値の高い四つのルネサンス建築様式が存在しました。それはプラテレスコ様式、イタリア様式、バロック様式、チュリゲレスク様式です。
- プラテレスコ様式: 銀細工のような華麗な装飾図柄を建物に施したことからこの名があります。サラマンカ大学の正面ファサードがその典型例で、シモン・デ・コロマらがこの様式を代表する建築家です。
- イタリア様式: イタリア建築の古典的法則に着想を得た様式で、フェリペ2世が建造を命じたエル・エスコリアル宮殿にその姿を見ることができます。この様式を最も見事に体現したのは、建築家フアン・デ・エレラです。
- バロック様式: 16世紀に形を整え、18世紀に絶頂期を迎えました。ギリシャ・ローマの意匠を基調としながら、それらを斬新に組み合わせたのが特徴で、教会堂の祭壇装飾などに見られます。
- チュリゲレスク様式: 創始者ホセ・チュリゲラの名にちなんだ呼称です。花綱や柱、自由奔放な意匠による、過剰ともいえるほど華麗な装飾が特色で、教会の祭壇などに見られます。最も価値ある記念碑的建造物としては、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ教会堂が挙げられます。