古代の歴史

史上最短の統治期間を持つカリフは誰か?――ISIL指導者バグダーディーの生涯と最期

「史上最短の統治期間を持つカリフ」として話題になることが多いのが、過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」の指導者、アブー・バクル・アル=バグダーディーです。彼は2014年6月に自らを「カリフ」と宣言し、2019年10月26日にシリアで実施された米軍の作戦によって命を落とすまで、およそ5年間にわたりその地位に就いていました。

自称「カリフ」とは何だったのか

カリフ(カリファ)とは、本来、イスラム共同体(ウンマ)の政治的・宗教的指導者を指す称号です。しかし、バグダーディーの「カリフ」宣言は、イスラム世界の主流派から正当性を認められず、多くの宗教指導者や学者がこれを強く批判しました。それでも彼は、イラクとシリアにまたがる支配地域において独自の「国家」樹立を掲げ、国際社会に深刻な脅威を与え続けました。

2019年10月26日、シリアでの最期

2019年10月26日深夜(現地時間)、米軍特殊部隊はシリア北西部イドリブ県のバリーシャ村で、バグダーディーの身柄確保を目指す突入作戦を実行しました。追い詰められた彼は逃走の道を絶たれ、爆弾ベストを起爆して自爆したと伝えられています。この作戦の成功は翌日、当時のトランプ米大統領によって発表され、長年国際指名手配されていた男の最期が世界中に報じられました。

「史上最短のカリフ」は正確な表現か

厳密に言えば、「史上最短のカリフ」という呼び方には検討の余地があります。歴代のカリフには、数ヶ月、場合によっては数週間しか在位しなかった人物も存在します。例えばウマイヤ朝のイブラーヒーム・イブン・アル=ワリードは、744年にわずか2〜3ヶ月ほどしか統治しませんでした。在位期間だけで比べれば、約5年間君臨したバグダーディーはむしろ長い部類に入ります。

ただし、バグダーディーのケースが特異であるのは、その「カリフ位」が歴史的なカリフ制度の枠外にある自称のものであった点です。広く承認された正式なカリフではなく、テロ組織の最高指導者として名乗った肩書きにすぎないため、「カリフ」という言葉をどう定義するかによって評価は大きく変わります。

まとめ

アブー・バクル・アル=バグダーディーは、2014年の「カリフ」宣言から2019年の死亡まで約5年間、ISILの頂点に立ち続けました。「史上最短のカリフ」という表現は必ずしも正確ではありませんが、彼の死は、過激派組織による「カリフ制」復活の試みが事実上終わりを告げた瞬間として、現代史に記録されることになりました。