古代エジプト第19王朝のファラオ、ラムセス2世(在位:紀元前1279年頃〜前1213年頃)は、「ラムセス大王」の異名を持つ、エジプト史上屈指の建築家として知られる王です。66年に及ぶ長い治世の中で、エジプト全土からヌビア地方まで、神殿・宮殿・記念碑を次々と造営しました。ここでは、彼が手がけた代表的な建造物を紹介します。
主な神殿
アブ・シンベル神殿
ラムセス2世の業績として最も有名なのが、ヌビア(現エジプト最南部)の岩山を直接削り出して造った巨大な岩窟神殿です。入口には高さ約20mのラムセス2世の坐像が4体立ち並び、奥の聖室では毎年2回、朝日が神像を照らすという仕掛けでも知られています。隣には王妃ネフェルタリに捧げられた小神殿もあります。1960年代のアスワン・ハイダム建設時には水没の危機に直面しましたが、ユネスコの国際協力により神殿全体が切り出されて移築され、現在も観光客を魅了しています。
ラムセウム(葬祭殿)
テーベ(現ルクソール)西岸に建てられた、ラムセス2世自身のための葬祭殿です。かつては高さ17mを超える花崗岩製の巨像が安置されていたとされ、その姿はイギリスの詩人シェリーの名詩「オジマンディアス」の着想源になったとも言われています。
ルクソール神殿の増築
既存のルクソール神殿に対しても、巨大な塔門(パイロン)と広大な中庭を追加する大改修を行いました。入口には高さ約25mのオベリスクが2本立てられましたが、そのうち1本は1836年にフランスへ贈られ、現在はパリのコンコルド広場に立っています。
宮殿と新首都
新首都ペイ・ラムセス
ナイルデルタ東部には新首都ペイ・ラムセス(ピラムセス)を建設しました。ヒッタイトとの覇権を争ったカデシュの戦いなど、軍事遠征の拠点として機能した都市です。
メンフィスでの造営
古都メンフィスにおいても、プタハ神域の拡充をはじめとする大規模な建設活動が行われました。
マルカタ宮殿
テーベ西岸のマルカタ宮殿(「歓喜の宮殿」)は本来アメンホテプ3世の時代の建造物ですが、ラムセス2世もこれを利用・改修したと考えられています。
その他の重要な建造物
カルナック大神列柱室
カルナック神殿内にある世界最大級の多柱式ホールです。父セティ1世が着工したこの壮大な計画を、ラムセス2世が引き継いで完成させました。高さ20mを超える巨大な柱が134本も並ぶ、圧倒的な空間として訪れる人を魅了します。
アビドスのセティ1世神殿
父セティ1世がアビドスに建てた葬祭神殿の仕上げを行いました。歴代ファラオの名前を刻んだ「アビドス王名表」があることでも有名な神殿です。
メムノンの巨像
テーベ西岸に立つ高さ約18mの巨像2体です。厳密には先代アメンホテプ3世によって造られたものですが、ラムセス2世の時代にもテーペのネクロポリス(死者の町)の象徴としてそびえ立っていました。
このように、ラムセス2世の建築事業は古代エジプト史上最大級のものであり、彼が残した記念碑の多くは3300年以上経った今日もなお、エジプト各地でその威容を誇り続けています。