古代の歴史

「エホバ」という神名の起源――ヘブライ語のテトラグラマトンYHWHを辿る

キリスト教などで親しまれてきた神の名「エホバ(Jehovah)」は、そのルーツを古代ヘブライ語に持ちます。もととなっているのは、旧約聖書(ヘブライ語聖書)に現れる、4つの文字からなる神の固有名、いわゆる「テトラグラマトン」יהוה(YHWH)です。この名はイスラエルの神を指すもので、出エジプト記3章14節において、モーセに対して神ご自身の名として啓示されたと伝えられています。

テトラグラマトンの語源をめぐる諸説

YHWHという神名の正確な語源については、今日でも確定的な結論は出ていません。有力な説の一つは、ヘブライ語の動詞「ハヤー(hayah/היה)」=「存在する・である」に由来するとするものです。別の説では、「ハーワー(havah/הוה)」=「なる・生じる」という動詞が源だとされ、さらに両方の動詞が組み合わさってできたと考える研究者もいます。

いずれの説を採るにせよ、この神名が「存在」や「永続」といった概念と深く結びついている点で見解はほぼ一致しており、出エジプト記における神の自己啓示の文脈ともよく調和するとされます。

ユダヤ教における扱い――決して発音されない聖なる名

テトラグラマトンは、ユダヤ教において最も神聖な神の名とみなされてきました。そのため、礼拝の場では決して発音されることがなく、代わりに「アドナイ(Adonai/主)」という呼び名が用いられます。

この「発音しない」伝統は、紀元前3世紀頃、第二神殿時代に始まったと考えられています。「神の名をみだりに唱えてはならない」という掟への深い敬意から、神名を読む際に別の言葉へ置き換える慣行が次第に定着していったのです。

「エホバ」という読み方はどう生まれたのか

実は「エホバ」という形の神名は、比較的新しい時代の産物です。英語では16世紀に初めて使われたとされ、ヘブライ語のテトラグラマトン(YHWH)と、ラテン語表記「Iehovah」との関係の中で成立しました。背景には、子音だけのYHWHに「アドナイ」の母音を当てはめて読んだ中世ヨーロッパの慣習があります。

こうした経緯から、ユダヤ教徒は「エホバ」という呼び名を一切使用せず、多くの学者もまた、これをテトラグラマトンの正確な復元ではなく誤った転写と見なしています。現代の学術的な文脈では「ヤハウェ(Yahweh)」という読みが一般的ですが、これもあくまで推定であり、本来の発音は長い歴史の中で失われてしまったと考えられているのです。