紀元前331年、アレクサンドロス大王とダレイオス3世が激突したガウガメラの戦い。この戦いについて「ファランクス(マケドニア重装歩兵の方陣)が攻撃を行い、その後に騎兵隊が突撃した」という説明を目にすることがありますが、これは正確ではありません。実際の戦闘において、ファランクスによる攻撃は行われておらず、勝利を決定づけたのはアレクサンドロス自身が直率したマケドニアの精鋭騎兵「ヘタイロイ(王直属騎兵)」でした。
実際の戦闘の流れ
① ヘタイロイ騎兵がペルシア軍左翼を撃破
アレクサンドロスは自らヘタイロイ騎兵を率い、ペルシア軍の左翼に向かって突撃しました。対峙していた敵騎兵はこれに耐えきれず潰走し、左翼は崩壊します。ここで主導権を握ったのは、あくまで騎兵部隊でした。
② 方向転換してペルシア軍中央の敗残兵を追撃
左翼を突破したヘタイロイ騎兵は、そのまま方向を転じてペルシア軍中央へ機動し、逃走する戦車部隊や軽装騎兵に対して攻撃を加えました。この柔軟な追撃こそが、戦局全体を決定づけたのです。
③ ファランクスの役割は「防御」だった
一方、ファランクスは攻撃の先鋒ではなく、正面から突撃してくるペルシア軍の歩兵戦列を持ちこたえるという防御的役割を担いました。長槍サリッサの壁を維持して戦線を守り抜き、騎兵が決定的な一撃を加えるための時間を作り出したのです。
史料は何を語っているのか
アッリアノスやプルタルコスなど、この戦いを伝える古代の史料のいずれにも、ガウガメラにおける「ファランクスによる攻撃」に関する記述は存在しません。つまり「ファランクス攻撃→騎兵突撃」という順序は、後世の誤解あるいは単純化された説明にすぎません。実態は「ファランクスが防ぎ、アレクサンドロス直率の騎兵が勝負を決めた」というものだったのです。