「やがてアジア人が世界を支配する」と未来学者は予測する。彼らと渡り合うには、洗練された外交作法が不可欠だ。ある大統領は日本との関係を「苦痛と希望」と表現し、別の大統領は存命中の明仁天皇を侮辱した。最悪の事態――ホストの膝の上で嘔吐する――さえ、現実に起きている。
1. 時間厳守――遅刻は「顔への平手打ち」だ
極東、とりわけ日本では、わずかな遅刻でも重大な無礼とみなされる。レフ・カチンスキ・ポーランド大統領(当時)が東京で明仁天皇との謁見に遅れた際、会見は中止された。公式理由は「天皇陛下の体調不良」だったが、実態は明らかだった。天皇がカチンスキ氏を「世界の面前で」不快に思われたのだ。 大統領は首相との会談で妥協せざるを得なかった。

直前のキャンセルも禁物だ。2013年、オルバン・ハンガリー首相が北京訪問を直前に取りやめ、ブリュッセルへ向かった際、中国側は強い侮辱を受けたと激怒した。
2. 「ブシュ・スル」を避けろ――体調不良でも会食は慎重に
会合キャンセルの例外は深刻な健康問題のみ。しかし、病気のジョージ・H・W・ブッシュ米大統領(父)が犯した失態は、欠席より酷かった。ウカシュ・ヴァレフスキ氏の著書『女王陛下に挨拶を』(SQN、2015年)から引用しよう。
1992年、宮澤喜一首相主催の公式晩餐会で、腸内インフルエンザに冒されていたブッシュ大統領は、隣席の宮澤首相の膝の上に嘔吐し、そのまま気を失った。 同席していた135人の外交官が凍りついた瞬間だった。
映像が米メディアに流れると、大統領主治医を名乗る男がCNNに電話し、「ブッシュ大統領は目の前で死亡した」と虚偽報道を試みた。放送直前に発覚したが、この一連の騒動は日本で「ブシュ・スル(ブッシュる)」という動詞として語り継がれている。
3. 服装は「地味・暗色」が鉄則
極東では抑制されたダークカラーが基本だ。2002年、ミレル・ポーランド首相(当時)が天皇陛下との謁見で着用したのは、「ロマンス」「ピンク」「ラブ」「セクシー」と英文字が踊るピンクと白のドレスだった。英語に堪能な天皇陛下がどう思われたか、想像に難くない。

ブッシュ元大統領も中国訪問で、靴底に米中両国旗を描いて鄧小平氏に見せた。中国では足の裏は極めて汚い部位とされ、深く相手を傷つけた。
4. 挨拶は慎重に――握手一つで国民感情を害する
極東では身体接触はリスクが高い。肩を叩く、キスをするは論外。握手も要注意だ。ビル・ゲイツ氏が2013年、韓国の朴槿恵大統領(当時)と握手した際、右手で握手しながら左手をズボンのポケットに入れたままだった。 韓国メディアはこれを「国家全体を打撲させた握手」と酷評した。韓国では挨拶時にポケットに手を入れるのは極めて無礼だからだ。

ガム噛みも関係を冷やす。オバマ元米大統領が習近平国家主席を迎える際にガムを噛んでいたのは、無礼かつ教養欠如の証と読まれた。
5. 名刺は「両手で、頭の高さまで」――百年の歴史に敬意を
極東出張では名刺必携。中国ではルイ14世が欧州サロンに広める17世紀以前から普及していた。

名刺は両手で持ち、相手の顔の高さまで掲げて渡す。中国人が歯で空気を吸う音(「スー」という音)を立てながら名前を読めば、それは最大の敬意の表れだ。
6. 安易な触れ合いは禁物――「他人の妻」にスカーフをかけない
騎士道精神が裏目に出る。北京APEC首脳会議の花火大会で、プーチン露大統領が寒そうな彭麗媛夫人(中国主席夫人)に自分のスカーフをかけてあげた。夫人は笑って受け取ったが、即座にスタッフに手渡した。中国では他人の妻に触れるのは極めて無作法だからだ。この場面はTV放送からカットされた。
7. 言葉は「発音一つで修羅場」――通訳の機転が命を救う
極東言語は欧州語と遠い。流暢でも発音一つで意味が変わる。長年中国で過ごしたラッド豪首相(当時)が中国語で発言した際、「中豪関係は同時オーガズムを楽しんでいる」と聞こえてしまった。中国側は後になって「あ、あなたがあの方ね」と皮肉交じりに迎えたほどだ。

ウェンサ・ポーランド元大統領も日本でポーランド語演説中、「共産主義者は大根だ。外側だけ赤い」と喩えたが、日本の大根は白皮のみ。通訳が咄嗟に「共産主義者はエビだ」(茹でると赤くなる)と言い換え、場を救った。
相手の発音を嘲るのは論外。キルヒネル・アルゼンチン大統領(当時)は中国訪問で、中国人の「r」の発音を「l」と揶揄するツイート(「lys(リス)」と「lop(ロップ)」)を投稿し、アルゼンチン国内で大炎上した。中国ではTwitterが検閲されているため北京は沈黙したが、外交的配慮を欠いた行為だった。

8. 中国と日本を混同するな――「隣国」ではない感覚を理解せよ
我々から見れば隣国でも、当事者は違う。文化差、領土問題、歴史認識の溝は深い。オランド仏大統領が東京訪問中、中国国民に向けて演説しようとした際、通訳の機転で外交衝突は回避されたが、フランス国内で長く批判された。
9. 11月11日の「赤いポピー」はモンテ・カッシノに置いてこい
中国訪問を11月11日(休戦記念日)に設定するのは避けたい。2010年、キャメロン英首相が従来通りポピーの造花を襟につけて訪中した際、中国側はアヘン戦争(19世紀半ば)への皮肉と受け取った。中国にとってそれは「敗北・屈辱・西欧依存の記憶」だからだ。英側が外さなかったため、合同乾杯の写真から温家宝首相(当時)がカットされる事態となった。

10. 贈り物は「時計・ペア」を避けろ――死を連想させるタブー
ヴァレフスキ氏は「贈り物は些細なものだが、込められた感情は強烈だ」と中国の言葉を紹介する。実態は「高価で大型」が期待される。ペア(二つ一組)の贈り物は「不吉な13」に相当し、時計は「受取人の余命をカウントダウンする」忌み物だ。 クレイマー英運輸相(当時)が柯文哲・台北市長(当時)に腕時計を贈り、関係改善どころか微妙な空気を生んだのは有名だ。
おわりに――「違いを知り、思考せよ」
極東へ赴く際、第一に文化差を自覚し、思考することだ。何気ない仕草が誤解を招く。経験豊富な外交官に事前相談するのが賢明だ。それでも失態を演じても、世界の指導者たちと同列に語られるだけマシ、と慰めるしかない。
参考文献
主要文献
ウカシュ・ヴァレフスキ『女王陛下に挨拶を――失言、失態、ファッション・パス、そしてその他の物語』SQN、2015年。
副次文献
- キム・ムナク『韓国人・中国人・日本人』オリエンタル・フラワーズ、2010年。
- カタジナ・パヴウォフスカ=サリンスカ『完璧主義者が最も恐れるのは発言だ』ヴィトルド・スコロンスキ博士インタビュー、2015年10月29日アクセス。
- J・C・ヤン『ゼノフォブのためのハンドブック:中国人』アダマンタン、2011年。