歴史物語

オシリス神話――死と復活を描く古代エジプト最大の神話

オシリス神話とは

オシリスは、3000年以上にわたる古代エジプト文明において最も重要な神々の一人です。オシリスの生涯、死、そして冥界における復活についての詳細な物語は、ギリシャの歴史家プルタルコスによって記録されています。

五つの余分な日

天空の女神ヌトは太陽神ラーの妻でしたが、大地の神ゲブと密かに恋に落ち、やがてゲブの子を身ごもります。しかしこの不義の出産を知ったラーは、「ヌトが一年のいずれの月にも出産することを禁じる」と宣言しました。

ところが、ラーの思惑を見事に裏切ったのが知恵の神トートです。ヌトに密かに想いを寄せていたトートは、月の神コンスに「セネット」という盤上ゲームで勝負を挑みました。勝利したトートは賭けの報酬として一年に五日間の余分な日を手に入れます。この余分な日の初日にヌトはオシリスを出産し、続く日々には大ホルス、セト、イシス、ネフティスの神々が次々と生まれたのです。

美しい棺の罠

オシリスはイシスを妻とし、父ゲブの後を継いでエジプトの王となりました。国は平和と繁栄を享受し、オシリスはその知識を広めるためエジプト国外へ旅立ちます。しかし帰還を待っていたのは、王座を狙う弟セトの陰謀でした。セトはエチオピアの女王アソをはじめとする72人の共謀者とともに盛大な宴を開き、「この棺にぴったり収まる者に贈る」として美しい石棺を披露します。セトは兄の身体の寸法を事前に知っていました。何も知らないオシリスが棺に横たわると、寸分違わずぴたりと収まりました。その瞬間、セトと共謀者たちは棺の蓋を閉め、ナイル川へ投げ込んだのです。

イシスの探索

夫の身に起きた出来事を知ったイシスは、神アヌビスを伴ってオシリスの遺体を探し求めました。流された棺はタマリンドの木の枝の間に落ち、木は驚くほど高く成長し、棺を幹の中へと飲み込みます。やがてメルカルトス王がその見事な木に目をつけ、切り倒して宮殿の柱として使いました。

木が切り倒されたことを知ったイシスは、王の後宮の侍女たちが訪れる泉へ向かいます。女神は侍女たちに優しく語りかけ、その吐息で彼女たちの髪をどんな花よりも芳しくしました。不思議に思った王妃アスタルテが理由を尋ねると、侍女たちはイシスのことを語ります。こうして王妃に招かれたイシスは、王子の一人の乳母に任じられました。イシスは普通の授乳ではなく指を吸わせ、毎晩王子を火の中に置き、燃え尽きることで不死の存在へと変えようとしたのです。

失われた不死

ある日、炎の中に立つ我が子を目撃した王妃は思わず悲鳴を上げてしまいます。これにより王子は不死となる機会を失いました。イシスは王妃に自らの素性と経緯を打ち明け、オシリスの棺を納めた柱を譲り受けるよう懇願します。承諾を得たイシスは柱を開いて棺を取り出し、エジプトへ持ち帰りました。そして帰国後、棺を密かに隠したのです。

十四に裂かれた体

しかしある夜、イノシシ狩りの最中にセトは箱を発見してしまいます。セトはオシリスの遺体を14個に引き裂き、ナイル川へ投げ捨てました。遺体の断片は流れに乗って岸辺の各地に散らばります。ただ一つ、男根だけはレピドトゥス、ファグルス、オクシリュンコスという三匹の魚に呑み込まれてしまいました。これを知ったイシスはすべての断片を集め、それぞれを埋葬して墓を築きました。こうしてオシリスは冥界の住人となったのです。

復活――もう一つの伝承

オシリス神話には別の伝承もあります。それによれば、遺体の断片が発見されたとき、嘆き悲しんだのはイシスだけでなく妹ネフティスもでした。イシスの涙は、ナイル川の年一回の氾濫をもたらすのだといわれています。二人の嘆きを天で聞いたラーは、神アヌビスを地上に遣わしました。アヌビスはトートとホルスの助けを借りてオシリスの体を一つに繋ぎ合わせ、亜麻布の包帯で巻きます。これがオシリスがミイラの姿で描かれる由来だとされます。そして翼を持つイシスが遺体の上空を舞うと、その羽ばたきによる風がオシリスの鼻に入り、オシリスは命を取り戻しました。以後、オシリスは冥界の裁判官にして死者の王として君臨することになったのです。