古代の歴史

ピラミッド、オベリスク、そしてフェニックスを生んだ古代エジプトの聖石「ベンベン」――ヘリオポリス太陽神殿の謎

古代エジプトの宗教は、多様な起源を持つ信仰や儀礼が複雑に融合した体系でした。地域ごとに異なる創世神話が存在し、登場する神々もさまざまでしたが、どの神話においても、世界(より正確にはエジプト)がよく似た過程を経て生まれたと語られています。

原初の水「ヌ」と最初の丘「ベンベン」

これらの天地創造神話に共通する要素のひとつが、世界はヌ(Nu)と呼ばれる混沌の水から生まれたという信念です。そして、最初に現れたのがベンベン(benben)と呼ばれるピラミッド状の丘でした。

この原初の丘から太陽が誕生し、その太陽はラー(Ra)やケプリ(Khepri)といった神格として擬人化されました。

ピラミッド、オベリスク、そしてフェニックスを生んだ古代エジプトの聖石「ベンベン」――ヘリオポリス太陽神殿の謎

ヘリオポリスと創造神アトゥム

古代エジプトの四大都市――ヘルモポリス、ヘリオポリス、メンフィス、テーベ――は、それぞれ異なる神の崇拝と結びついていました。ヘリオポリス(現在のカイロ北東郊、アイン・シャムス)で崇拝されていたのは、ベンベンの丘から自らを生み出したとされる創造神アトゥムです。

実際、「ピラミッド・テキスト」ではアトゥム自身が丘として言及され、小さなピラミッドとなり、その中に住んだと記されています。この小さな聖石はヘリオポリスのラーの太陽神殿に安置され、オベリスクやピラミッドのモデルになったと考えられています。また、ピラミッドの頂部に据えられる石ピラミディオン(pyramidion)も、その形が原初のベンベンに由来することからベンベン石と呼ばれています。

ピラミッド、オベリスク、そしてフェニックスを生んだ古代エジプトの聖石「ベンベン」――ヘリオポリス太陽神殿の謎

失われた聖石の姿

この原初の聖石は、歴史のどこかの時点で失われ、正確な大きさは分かっていません。当初は円錐形あるいは丸みを帯びた形だったと考えられますが、建築上の必要から変化を遂げ、四角い基壇を持つ小型のピラミッドへと進化しました。その表面は金で覆われ、朝日の最初の光が差した場所を象徴していたといいます。

ベンヌ鳥とフェニックス伝説

さらに興味深いことに、ベンベン石は創造と再生を象徴するベンヌ鳥(Bennu)の神話とも深く結びついています。この鳥はサギの頭を持つ人物の姿で描かれ、ベンベン石の上にとまる姿で表されました。

ベンヌ鳥は、ラーの神殿にあった聖なる木を燃やす炎の中から自らを生み出したとされ、灰から蘇る力を持っていました。ギリシャ人はこの鳥をフェニックス(Phoenix)と呼んだのです。

ピラミッド、オベリスク、そしてフェニックスを生んだ古代エジプトの聖石「ベンベン」――ヘリオポリス太陽神殿の謎

ピラミッド・テキストに残る言葉

ピラミッド・テキスト(第600章、§1652)には、次のように記されています。

「おおアトゥム=ケプリよ。あなたが高みに昇り、ヘリオポリスのベンベンの館でベンベン石として立ち現れたとき……」

隕石説と「太陽への階段」

ベンベン石の正体については、さまざまな解釈があります。一部の学者は、原初のベンベン石は隕石だったのではないかと考えています。また、オベリスクを石化した太陽光線、ピラミッドを太陽への階段と捉える見方もあり、これらはアトゥムと太陽崇拝との関係を象徴する建造物だったとされるのです。