古代の歴史

アキレスを無敵にした神話の水――ギリシャ一高い「ステュクスの滝」の魅力と謎

ペロポネソス半島北部にそびえるアロアニア山脈

古代アルカディア地方、現在のギリシャ・ペロポネソス半島北部のアカイア県に位置するアロアニア山脈には、国内第3位の高峰(標高2,355メートル)がそびえています。

アキレスを無敵にした神話の水――ギリシャ一高い「ステュクスの滝」の魅力と謎

この山々からは北へ南東へと幾つもの川が流れ下り、ケルモス山の標高約2,100メートル地点から湧き出るクラティス川は、壮大な滝――「ステュクスの滝」を形作っています。

アキレス伝説の舞台

神話の伝承によれば、こここそ英雄アキレスの有名な物語の舞台です。母であるニュンペーのテティスは、息子を無敵にするためステュクス川の水に彼を浸したとされます。しかし、母親が掴んでいたかかとの部分だけは水に浸からず、そこが唯一の弱点となりました。そして最終的に、アキレスはトロイアのパリス(アレクサンドロス)が放った矢によって、そのかかとを射抜かれたのです。

滝の高さは約200メートルに及び、ギリシャ全土で最大規模を誇ります。滝の裏には小さな洞窟があり、岩肌を流れ落ちた水は渓谷の底で再び姿を現し、山あいの小川となります。古代においては、アキレスが浸されたとされる伝説の泉が、まさにこの場所にあったのかもしれません。なお現在、滝が豊かな水量を見せるのは冬の終わりから春にかけてのみです。

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古代文献に残る記録

1854年にウィリアム・スミスが刊行した『ギリシア・ローマ地理辞典』では、この滝について次のように記述されています。

アキレスを無敵にした神話の水――ギリシャ一高い「ステュクスの滝」の魅力と謎

近隣の町の住民たちは、滝から流れる川を「マヴロネリ(黒い水)」と呼び、その水を飲むことを避けています。これは古典文献の記述ともよく一致しているのです。

ホメロスは『イリアス』(15.37)で「ステュクスから流れ落ちる水」に言及し、ヘシオドスは『神統記』(785〜805行)の中で、「高く険しい岩から降り注ぐ冷たい流れ(中略)非常に急な斜面を流れ落ちる、ステュクスの最も古く絶えることのない水」と描写しています。

また滝の周辺には、ヘロドトスが言及した「ノナクリス」と呼ばれる都市がありました。パウサニアスもこれに触れており、アロアニア山脈の中、ステュクスの滝のそばにあったとしています。

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冥界の川ステュクスの正体

ギリシャ神話におけるステュクスは、ティーターンのテテュスの娘でした。このテテュスが、アキレスの母であるネーレイスのテティスと混同あるいは結び付けられたことで、アキレスとこれらの水との関係が生まれた可能性もあります。

ステュクスはオーケアニデス(オケアノスの娘たち)の一人で、ハデス(冥界)の川の一つを擬人化した存在です。それゆえ「ステュクス川」と呼ばれますが、彼女自身はアルカディアの源泉に住み、その水は冥界へと流れていくとされました。ギリシャ人たちはこの源泉を、今日も見ることができる滝と同一視していたのです。

伝えられるところによれば、この水を飲んだ死すべき者は誰一人生き残れず、陶器やガラスは水に浸すと割れ、金や銀さえも溶けてしまったといいます。耐えられたのは馬の蹄だけで、そのため神々は蹄で作った容器を使ってこの水を飲んだとされます。

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アレクサンドロス大王毒殺説と現代科学

古代には、アレクサンドロス大王がステュクスの水によって毒殺されたのではないかと考えられていました。興味深いことに2010年、スタンフォード大学のエイドリアン・メイヤー氏と製薬会社ファイザーのアントワネット・ヘイズ氏が、この水には湖底の土壌に生息する細菌が作り出す「カリケアマイシン」という物質が含まれ、毒性を持つ可能性があることを突き止めたのです。

訪れる人のための情報

ステュクスの滝は、切り立った石灰岩の崖の間というアクセスの難しい場所にあり、ペロポネソス半島唯一の氷河湖の近くに位置しています。滝の足元まで続くハイキングコースが整備されており、登山愛好家や観光客に人気のスポットとなっています。