古代の歴史

マムルーク朝の剣「キリジ」――トルコ起源の名刀がたどった歴史

マムルーク朝の剣「キリジ」――トルコ起源の名刀がたどった歴史

キリジとは何か

キリジ(トルコ語:kılıç、「剣」の意)は、トルコに起源を持つ片手用の刀剣です。わずかに反りを帯びた刀身は片刃仕立てで、軽快な斬撃を可能にする曲刀(サーベル)の一種として知られています。

この形式の刀剣は、突厥(こつとっく)、ウイグル可汗国、ティムール朝、カイロのマムルーク朝、そしてオスマン帝国など、中央アジアから中東にかけて栄えた騎馬民族の軍隊で広く使用されました。騎兵が馬上から振るうのに適したその形状は、遊牧民の戦闘様式と深く結びついて発展してきたものです。

刀剣の特徴

本作のキリジは全長約77センチメートル。革製の鞘には鋼鉄製の鐶(かん)や鋲、留め具が施され、実用性と装飾性を兼ね備えた仕上げとなっています。反りの浅い刀身は、突きと斬りの両方に対応できるバランスの良い設計です。

ナポレオン軍への影響

エジプト遠征の際、フランス軍の将校たちは東方のこの美しい曲刀に強く魅了され、帰国後フランスへ持ち帰りました。こうしてキリジの影響を受けたサーベルは、ナポレオン1世の大陸軍将校たちによって実際に使用されるようになります。帝国元帥ジャン・ランヌや、名将アントワーヌ・シャルル・ルイ・ド・ラサール将軍らも、このタイプの刀剣を佩用したことで知られています。

19世紀イギリス騎兵との関わり

キリジの影響はフランスにとどまりませんでした。19世紀末のイギリス騎兵隊もまた、キリジに強く着想を得たサーベルを採用しています。ただしイギリスのモデルでは、革ではなく真鍮製の鞘が用いられた点が特徴的です。

一振りの曲刀が、中央アジアの草原からオスマン帝国、そしてヨーロッパ各国の軍隊へと伝わり、各国の軍装文化に影響を与えてきたこと──キリジの歴史は、東西の武具文化交流を物語る好例といえるでしょう。