優れたドイツ砲術と、より厳しく鍛えられたドイツ水兵たち。その実力が示されたことで、長年にわたり揺るぎなかった英国の海上支配に、ついに陰りが見え始めたのである。
北海に響き渡った巨砲――史上最大級の艦隊決戦
キール運河沿いの基地へ向かう途上にあったドイツ艦隊は、水曜日の午後に北海へ姿を現した。ユトランド(デンマーク・ジュットランド半島)沖において、ドイツ艦隊は英国艦隊と交戦し、戦闘は午後から深夜まで続いた。この海戦は、おそらく歴史上最大規模の艦隊決戦となったものである。
両軍が払った代価――甚大な損害
英国側の損失
戦闘が終わった時点で、英国は巡洋戦艦「インディファティガブル」「クイーン・メリー」「インヴィンシブル」、装甲巡洋艦「ブラック・プリンス」「ウォーリア」「ディフェンス」を失っていた。さらに第5戦隊の「マラヤ」「バラム」「ウォースパイト」「ヴァリアント」は、甚大な損害と多数の死傷者を出し、当時の報道ではドイツへの降伏が伝えられるほどの窮地に陥った。
ドイツ側の損失
一方のドイツも決して無傷ではなかった。軽巡洋艦「エルビング」「ロストック」「ヴィースバーデン」、巡洋艦「フラウエンロープ」、そして複数の水雷艇を喪失している。
「インディファティガブル」の悲劇
この海戦の凄惨さを物語る数字がある。乗員約900名を擁する巡洋戦艦「インディファティガブル」から、生きて救い出せたのはわずか2名だったという。一隻の沈没が、数百人の命を一瞬で奪う――それがこの時代の海戦の現実である。
ロンドンに衝撃が走る
各種報道が事実であれば、英国海軍は建国以来最大の敗北を喫したことになる。ところがロンドンの海軍本部は、いまだ公式声明を発表していない。現在流れている情報の多くは、ドイツ参謀本部の発表、あるいは死体と負傷者を満載して港へ戻ってきたデンマークやオランダの漁船からもたらされたものだ。
ドイツ帝国宰相は艦隊司令官あてに祝電を送った。その一方で、ジョージ5世国王から英国海軍のジェリコー提督あてに書簡が送られたと報じられているが、その内容は明らかになっていない。ただ、ドイツ側の祝電ほど熱狂的なものではなかったとされている。
戦場の位置と戦闘の推移
海戦の主戦場は、ノルウェー南端の南南東約125マイル(約200キロ)、デンマーク沿岸から約150マイル(約240キロ)の海域であった。主力艦同士の砲撃戦は午後4時に始まり、午後9時頃の日没まで続いた。その後も夜を徹して、散発的な遭遇戦が繰り返されたという。