中世のアラブ軍は、単純な brute force(暴力)よりも、速度・俊敏性・隠密性を重視して戦いました。待ち伏せの名手とも称された彼らは、例えば牡馬に比べていななき声がはるかに少ない牝馬や去勢馬を騎乗用として好んだほどです。こうした戦術思想を反映し、武具全体も軽量化を最優先に設計されていました。
丸く湾曲した籐製の盾「ダール」
アラブの防具を象徴するのが、丸く湾曲した形状の盾です。これは編み込んだ籐を羊毛や絹糸で補強し、中心部に金属製の円盤を取り付けることで剛性と耐久性を高めたものでした。軽量でありながら打撃を受け止めやすい構造は、騎射や機動戦を重んじるアラブの戦闘スタイルにぴったり合っていたといえます。
儀礼用の盾に見られる豪華な装飾
実戦用の盾とは別に、儀式や式典向けにははるかに華やかな装飾を施したモデルが存在しました。中央の金属円盤には4本のねじが設けられ、精巧に細工された装飾球を取り付けられるようになっていたのです。これらの装飾球はしばしば宝石や貴金属で作られ、持ち主の地位や富を示す象徴としての役割も担っていました。
西洋と遜色ない甲冑文化
ただし、「軽装備」が基本だったからといって、防御がおろそかにされていたわけではありません。中世を通じて、鎖帷子(くさりかたびら)と兜の着用はアラブの間でもごく普通に行われており、その普及度は西洋諸国と比べても遜色ありませんでした。アラブの武人たちは、戦況に応じて軽快な装備と堅固な甲冑を使い分けていたのです。