
第二次世界大戦中、アムステルダムの運河沿いの隠れ家でナチスに発見され、1945年に強制収容所で短い生涯を閉じた少女作家アンネ・フランク。彼女を密告した「裏切り者」は誰なのか——この未解決の事件に約6年間にわたって挑んだ捜査チームが、意外な容疑者の名前を突き止めました。
容疑者として浮上したのはユダヤ人公証人
捜査を主導したのは元FBI捜査官のヴィンセント・パンコケ氏。歴史学者、犯罪学者、データ専門家など約20人の専門家で構成されるチームが、最新の調査手法を駆使して事件の再検証を行いました。その結果、これまでほとんど知られていなかったユダヤ人公証人、アルノルト・ファン・デン・ベルフ氏が容疑者として特定されたのです。
ナチスがアムステルダムの隠れ家に踏み込んでから75年以上が経過していますが、捜査メンバーのピーター・ファン・トゥイスク氏は「ファン・デン・ベルフが、自分自身と家族を守るためにフランク一家を密告した可能性が非常に高い」と述べています。
2年間の潜伏生活と世界で読み継がれる日記
アンネが隠れ家で発見されたのは1944年8月4日のことでした。彼女は約2年間、プリンスグラハト運河沿いの隠れ家で潜伏生活を続けていました。家族を支えた協力者の一人ミープ・ヒースさんは、発見後もアンネの日記を守り抜きました。
日記は、強制収容所ベルゲン=ベルゼンで15歳で亡くなった娘の死から2年後の1947年、父オットー・フランクによって出版されました。世界中で何百万人もの読者を持ち、60以上の言語に翻訳された『アンネの日記』は、ホロコーストの記憶を今に伝える最も重要な証言の一つとなっています。
起訴ではなく「謎解き」のための捜査
今回の捜査の目的は、誰かを訴追することではなく、オランダの第二次世界大戦史上最大級の謎を解明することにありました。チームはナチス協力者や密告者のリスト、歴史文書、警察記録、過去の捜査資料をもとにマスターデータベースを構築し、ビッグデータ分析技術を活用して新たな証拠の発掘を目指しました。
さらに、数十に及ぶシナリオと容疑者候補の位置情報を地図上で可視化し、「隠れ家に関する知識」「動機」「機会」という3つの観点から裏切り者を絞り込んでいったといいます。
書籍『アンネ・フランクの裏切り者』として発表へ
新たな調査結果は、カナダ人作家ローズマリー・サリバン氏の著書『アンネ・フランクの裏切り者』として出版されます。過去数十年にわたり数多くの容疑者の名前が取り沙汰されてきましたが、現代的な捜査技術がこれほど大規模に投入されたのは今回が初めてのことです。
75年以上にわたって語り継がれてきた謎に一つの答えが示された今、この発見が歴史認識にどのような影響を与えるのか、世界中の関心が集まっています。