古代ローマの彫像を見てみると、性器が削り取られているものが少なくありません。一体なぜこのようなことが行われたのでしょうか?主な理由として、「宗教的な理由」「道徳的な理由」「芸術的な理由」の三点が挙げられます。
1. 宗教的な理由
古代ローマにおいて、宗教は日常生活に深く根ざしていました。ローマ人は神々が自らの生活に直接影響を与えると信じており、神々のご加護を得るために供物や捧げ物を定期的に行っていました。彫像は神々の姿を表すもの、すなわち神そのものの象徴とみなされることが多かったため、性器を取り除くことで神々の怒りを買いにくくなると考えられていたのです。
2. 道徳的な理由
ローマ人は道徳を重んじる民族でもあり、公の場での裸体は不作法であるという強い意識を持っていました。そのため、彫像で人物の性器を露出させて表現することは不適切とされることが多く、特に神殿やフォルム(広場)といった公共の場所に設置される彫像では、この傾向が顕著でした。
3. 芸術的な理由
場合によっては、純粋に芸術的な判断から性器が取り除かれることもありました。一部の彫刻家たちは、性器をあえて省いたほうが作品全体の美しさが引き立つと考えていたのです。これは特に、私邸などに置かれ、鑑賞者にその造形美を楽しむために制作された彫像に当てはまります。
後世の影響も見逃せない
さらに付け加えたいのは、後世の社会的影響です。古代ローマ時代には無傷だった彫像でも、中世以降のキリスト教社会において「わいせつなもの」とみなされ、意図的に破壊されたり、イチジクの葉で覆われたりした例が数多く存在します。つまり、現在私たちが目にする彫像の損傷には、古代の慣習だけでなく、後の時代の宗教的・審美的な価値観も大きく関わっているのです。
すべての彫像が損なわれていたわけではない
もちろん、すべてのローマ彫像の性器が取り除かれたわけではありません。競技者(アスリート)や神話上の英雄・生物を描いた彫像の中には、性器を露出したまま制作されたものも数多く残っています。それでも、ここで挙げた諸理由は、なぜ多くのローマ彫像が完全な形で現代まで伝わっていないのかを理解するうえで、重要な手がかりとなるでしょう。