古代の歴史

イギリス史の父と呼ばれる人物は誰?代表作『イングランド民族教会史』を解説

イギリス史の父――その名は「ベーダ」

イギリス史の父として知られる人物は、聖ベーダ(Bede、673年頃~735年)です。ベーダは中世イングランドのノーサンブリア地方に生まれた修道士であり、歴史家、神学者として活躍しました。その博識と学識から「尊敬されるベーダ(Beda Venerabilis)」という敬称でも呼ばれています。

ベーダの功績

ベーダは修道院で過ごした生涯の中で、神学、歴史学、年代記など多岐にわたる著作を残しました。特に、当時のイングランドにおけるキリスト教の伝道と発展の歴史を体系的に記録したことは、後世の歴史研究に計り知れない影響を与えました。彼の業績を称え、1899年にローマ教皇レオ13世によって教会博士の一人に認定されています。

最も有名な著書は『イングランド民族教会史』

ベーダの代表作であり、最も有名な著作が『イングランド民族教会史』(原題:Ecclesiastical History of the English People)です。

この書物は、紀元前のブリテン島の様子から始まり、731年頃までのアングロ・サクソン人のキリスト教化の過程を描いた歴史書です。全5巻から構成されており、以下のような特徴があります。

  • 客観的な史料収集: ベーダは各地の修道院や関係者から情報を集め、出典を明示する姿勢を貫きました。これは近代歴史学の先駆けとも評価されています。
  • 西暦紀年の普及: 彼は「アンノ・ドミニ(A.D.)=主の降誕の年」という紀年法を広く用い、これがヨーロッパ全体へと広まるきっかけとなりました。
  • 英語圏最初の歴史書: アングロ・サクソン人(イングランド民族)の視点でまとめられた歴史書として、イギリス史学の出発点と位置づけられています。

なぜ「イギリス史の父」と呼ばれるのか

ベーダ以前にも年代記や伝承は存在していましたが、彼のように綿密な取材と批判的な考証に基づいて歴史を叙述した人物はいませんでした。『イングランド民族教会史』は後の歴史家たちにとって最重要の一次史料となり、「イギリス史学の父」「イングランド史の父」という称号が与えられたのです。

現在でも、アングロ・サクソン時代のイングランドを理解するうえで、この書物は不可欠な文献として読み継がれています。