考古学的発見

ロンドンの古代ローマ墓地で「中国人」とみられる遺骨2体が発見か? シルクロードの果ての謎の旅人

古代ローマ時代の墓地から発掘された2体の人骨が、東アジア出身である可能性を示唆している。もし事実と確認されれば、考古学史上まれにみる異例の大発見となる。ロンドンの古代ローマ墓地で「中国人」とみられる遺骨2体が発見か? シルクロードの果ての謎の旅人

ロンドンに「チャイナタウン」があった?

ローマ皇帝の時代、アジアからの旅人が、当時ローマ帝国属州ブリタンニア(Britannia)の首都であったロンドン(ラティニウム/Londinium)にたどり着いていたのだろうか。ロンドン南部サザーク地区のラント・ストリート(Lant Street)で発見された、2世紀から4世紀にかけての古代ローマの共同墓地(ネクロポリス)から出土した人骨が、この意外なシナリオを浮かび上がらせたのである。

発掘された22体のうち19体を対象とした調査の結果、そのうち2人が中国出身である可能性が示された。この研究は学術誌『Journal of Archaeological Science』に発表されたもので、極東アジアの集団がローマ帝国と直接接触していた可能性を専門家たちはそれまで想定していなかっただけに、大きな驚きをもって受け止められている。

ロンドンの古代ローマ墓地で「中国人」とみられる遺骨2体が発見か? シルクロードの果ての謎の旅人ラント・ストリートのローマ墓地で発見された22体の人骨のひとつ。

同位体分析が明かした「故郷」

発掘調査を指揮したロンドン博物館の考古学者レベッカ・C・レッドファーン(Rebecca C. Redfern)氏は、「この2体の遺骨は、19世紀の中国人や日本人の集団に近い特徴を示します」と語る。

これらの結論に至る過程で、専門家チームは頭蓋骨の形態学研究に加え、人骨に含まれるストロンチウムと酸素の同位体分析を実施した。歯のエナメル質に含まれる同位体は、個人の地理的な移動を特定する重要な手がかりとなる。分析の結果、6人が幼少期をロンドンとは異なる土地で過ごしていたことが判明した。うち4人は北アフリカ出身——帝国が緊密な関係を保っていた地域だ——そして残る2人が「中国」出身とみられるという。

ロンドンの古代ローマ墓地で「中国人」とみられる遺骨2体が発見か? シルクロードの果ての謎の旅人ローマ帝国の版図を示す地図。

彼らは何者だったのか

では、この2人はいったい誰だったのか。「何らかの理由でローマ帝国の国境(リメス)の内側に入った集団の子孫である可能性があります」と研究者は推測する。

確かに2世紀のローマ人は、はるか彼方の神秘的な国「セリカ(Serica)」すなわち中国の存在を知らないわけではなかった。しかし両者の接触はあくまで間接的なものにとどまり(西暦166年に可能性のある事例が2件あるのみ)、主として交易相手だったパルティア(ペルシャ)を介して、高級な絹が「シルクロード」経由でローマへともたらされていた。この交易路はインドや中央アジアをも通っていた。中央アジアについては、5世紀前にギリシャの英雄アレクサンドロス大王が訪れて以来、ローマ人もその存在を知っていた。もし今回の発見が事実なら、ブリタンニアというローマ植民地に「中国人」が存在したことになり、従来描かれてきた世界交易の地図は部分的に塗り替えられることになる。

専門家の慎重な見方

もっとも、専門家の間では依然として慎重な姿勢が崩れていない。米フロリダ大学の生物考古学者クリスティーナ・キルグローヴ(Kristina Killgrove)氏は、「法医人類学者が地理的な出自を特定するために用いる比較手法にも限界があります。形態の解釈にはバイアスが入り込んだ可能性もあります。本当に『中国人』なのかどうかは、遺伝子解析を行って初めて分かるでしょう」と指摘する。

ちなみに中国は、著名なローマの著述家プリニウス(1〜2世紀)にとってさえ、あまりに遠く神秘的な国だった。実際に目にしたことがなかったためか、プリニウスは中国人をなんと「赤毛で青い目の人々」と描写している!

ローマ、ブリテン島を侵攻す

カエサルによる2度の失敗(紀元前55年と54年)の後、皇帝クラウディウスはついに西暦43年、ブリタンニア(ブリテン島)への侵攻に成功した。同盟関係にあった小王を救援するという口実のもと、皇帝はローマ屈指の精鋭軍団——第2アウグスタ軍団、第9ヒスパナ軍団、第6ウィクトリクス軍団、第14ゲミナ軍団、第20ウァレリア・ウィクトリクス軍団——およびローマ人以外の傭兵で構成される補助部隊を島に上陸させた。ドーバーに上陸した兵力は合計4万人。彼らはイングランドとウェールズの支配に向かったのである。古代ブリタンニアは、その後5世紀に至るまでローマの支配下に置かれ続けることとなった。