HBO『チェルノブイリ』が記録した歴史的評価
HBOのミニシリーズ『チェルノブイリ』は、視聴者投票によるIMDbの評価で史上最高となる9.7/10という驚異的なスコアを記録し、テレビ史に残る名作としての地位を確立しました。
「黒人俳優がいない」をめぐる論争
しかしその一方で、放送されたエピソードに黒人俳優が一切登場しないことへの批判が巻き起こりました。発端はTwitter上での投稿で、脚本家カーラ・マリー・スウィート氏らがこの点を指摘したことがきっかけです。これに対し制作側は、「当時のウクライナやプリピャチ市に住んでいたのは白人だけであり、脚本は徹底的に史実へ忠実であるべきだと考えていた」と反論しました。
実在した黒人のロシア兵
ところが実際には、チェルノブイリ原発事故の対応に少なくとも一人の黒人兵士が関わっていたことが分かっています。ロシアメディアが近年取り上げたのは、1967年生まれのイーゴリ・アナトリエヴィチ・ヒリャクという、ほとんど知られていない元兵士の存在です。
彼はモスクワから北へ約500キロ離れた町、チェレポヴェツに暮らしています。1985年に兵役に就き、1986年4月27日に行われたプリピャチ市の避難作業に参加しました。
SNSに投稿された1986年の証言写真
2016年、事故発生から30周年を迎えた際、ヒリャクは1986年当時の自身の写真をロシアのSNS「VKontakte」に投稿し、大きな注目を集めました。

ヒリャクが所属していたのは工兵部隊第75110部隊です。原子炉のメルトダウン後、市からの避難を円滑に進めるため、1986年5月2日にポンツーン(浮橋)を設置する任務に従事しました。
武装せずに汚染地帯へ
オシポフ大佐率いる部隊の兵士たちは、武器を一切持たず、軍服とガスマスクだけの姿で市内に入り、原子炉からわずか4キロの地点に陣を構えました。この勇敢な任務に対し、全員が国家から勲章を授与されています。

現在のヒリャク――農夫そして俳優経験も
現在ヒリャクは、チェレポヴェツ地方で自身の農場を切り盛りする農夫として生活しています。さらに、ロシア国内のインディペンデント映画作品や歴史ドキュメンタリーに端役として出演した経験もあるといいます。



明かされない出自
ヒリャクは自国メディアからの取材を一貫して拒否しているため、彼の正確な出自(民族的背景)については今なお明らかにされていません。
ドラマが描いた「史上最悪の核事故」
『チェルノブイリ』は、史上最悪とされる核事故で何が起きたのか、そしてその後に何が続いたのかを極めて高い忠実度で再現しているだけでなく、当時を取り巻く政治的な空気感までも見事に捉えた作品となっています。