ローマのマトロナとは何か
古代ローマにおいて「マトロナ(matrona)」とは、正当な結婚を結んだ既婚女性、すなわち「パテル・ファミリアス(pater familias)」と呼ばれる家長の妻を指す言葉でした。
パテル・ファミリアスとは、一族(クラン)全体の頂点に立つ絶対的な存在であり、家族はもとより使用人に至るまで、その権威に服従することが求められました。
家長の影にあった女性たち
とはいえ、妻が家庭内でまったく発言力を持たなかったわけではありません。家計の管理や家政、子どもの養育といった重要な役割は主婦に委ねられ、良き妻として敬意を払われることもありました。
しかし、最終的な決定権はあくまで男性側にあり、妻は夫の意志に従属する立場に置かれていたのです。
マトロナの象徴と美徳
正統な妻であるマトロナは、身分を示す長衣「ストラ(stola)」をまとうことが許されました。また、最も重視された美徳は「貞節(プディキティア)」であり、一人の夫に仕える「ウニウィラ(univira、一夫の妻)」であることが理想とされました。碑文には、家事に勤しみ羊毛を紡いだ忠実な妻を称える言葉が数多く残されています。
すべての女性に共通した境遇
これは妻だけに限った話ではありません。当時のローマ社会では、娘であれ姉妹であれ、女性は生涯を通じて父親や夫といった男性の保護と支配下に置かれるのが当然の身分とされていました。