
裕福さが招いた思わぬ悲劇
裕福であることが必ずしも幸せにつながるとは限らない。これは現代だけでなく、中世においても同様だった。
中世ヨーロッパでは、琺瑯(ホーロー)仕上げの皿やグラスを使って食事ができたのは、ごく一部の最上流階級の人々だけだった。豪華な宴席では、こうした美しく彩られた食器が富と権力の象徴として振る舞われていたのである。
美しさの裏に潜む危険
しかし、これらの洗練された食器には、当時の人々が知り得なかった重大な欠陥があった。琺瑯の釉薬には大量の鉛が含まれていたのだ。
鉛は、特に塩気の強い料理や、ワイン・酢を使った酸味のある食品と接触すると、容易に溶け出して食べ物の中へ移行し、食事のたびに体内へと蓄積されていった。
人骨が語る鉛中毒の実態
このような背景から、鉛中毒は中世の上流階級の間で非常に広く蔓延する病気となった。慢性的な腹痛、貧血、神経障害など、多彩な症状を引き起こすこの中毒は、あまりにも貴族層に多かったことから「王族の病」と呼ばれることさえあったという。
実際、この時代の人骨を対象に行われた科学的分析では、数多くの遺骨から高濃度の鉛が検出されている。美しい食器を求めた結果、自らの健康を損なっていた中世の富裕層の姿が、そこに浮かび上がってくるのである。