歴史物語

ChronoZoomで挑むタイムトラベル――46億年の歴史をつなぐ無限のデータベース

46億年におよぶ地球の歴史を、指先ひとつで旅できるとしたら? カリフォルニア大学バークレー校とマイクロソフトが共同で立ち上げた「ChronoZoom(クロノズーム)」は、まさにそれを実現しようという野心的なプロジェクトだ。ディープタイム(deep time)と呼ばれる太古の世界からごく最近の歴史まで、数十億年分の科学的知識を収めた「終わりなきデータベース」を目指している。この壮大な試みには、オランダの科学者たちも参画している。

K/Pg境界を専門とする地質学者

ChronoZoomプロジェクトに携わるオランダ人科学者の一人が、アムステルダム自由大学(VU)の地質学者ヤン・スミット(Jan Smit)氏だ。同氏は白亜紀から古第三紀への移行期、いわゆるK/Pgイベントの専門家である。この時代、小惑星の衝突によって恐竜をはじめとする多くの生命が地球上から姿を消した。スミット氏は自らを冗談めかして「在庫補充係」と呼ぶ。K/Pgイベントに関するあらゆる科学的知識を、ChronoZoomのデジタルタイムラインに書き加えていく役割を担っているからだ。

時間への意識

「地学ほど、時間の流れを実感できる教科はありません。私たちがディープタイムと呼ぶ、遥かな過去までずっとね」とスミット氏は語る。「地層の重なりや、大陸が地球表面をゆっくりと移動していく様子には、地質学的な時間の流れが文字通り刻まれています。ChronoZoomは、こうした時間感覚を刺激するための道具なのです。ビッグヒストリー(Big History)への理解をもとに構築されている点も見逃せません」

理系と文系をつなぐ架け橋

ChronoZoomの発祥の地はアメリカだ。数年前、ICT(情報通信技術)専攻のある博士課程の学生が、「タイムラインを多次元的に可視化するにはどうすればよいか」という問いから研究を始めたのがきっかけだった。しかし、ChronoZoomのテーマは地質学だけにとどまらない。バークレー校が実現を進め、マイクロソフトが資金を提供するこのプロジェクトは、人文科学と自然科学のあいだの溝を埋めることを目的として設計されている。たとえば「インカ帝国が滅亡した頃、地球ではどのような気候が支配していたのか」――そんな問いにも答えられるのだ。

大きなつながり

別の例を挙げよう。20億年前の地球上の生命はどのようなものだったのか? 当時の大陸はどのように配置されていたのか? スミット氏はこう説明する。「ChronoZoomでは、すべてをつなぎ合わせたいのです。ウェブサイトの背骨となるタイムラインを通じて、さまざまな時代へジャンプできます。当初は線形の時代区分でしたが、現在は対数スケールを採用しています」

ChronoZoomはHTML版としてウェブ上で公開されており、オフラインでは利用できない。スミット氏によれば、将来的にはWikipediaへのリンクが頻繁に設けられる予定だという。Wikipediaの情報に対しては懐疑的な見方も少なくないが、同氏はそれを正当とは考えていない。「ウィキページにある地球科学の知識は、十分に良質なものですよ」

4次元思考

では、科学的知識が静的に提示されるだけでよいのだろうか? 議論や不確実性のための場はどう確保するのか? 科学とは百科事典的な知識の集積ではなく、進歩し続ける洞察であるべきだからだ。スミット氏の専門分野であるK/Pgイベントは、その好例といえる。恐竜がどのような経緯で最期を迎えたのかをめぐって、科学者たちは今なお激しく論争を交わしているのだ。

「基礎となるのはピアレビュー(査読)を経た論文です。つまり、他の科学者によって検証済みの記事ですね。ChronoZoomはオープンソースのサイトにはなりませんので、そこで議論を始めることはできません。何よりの目的は、人々に4次元的な思考を促すことなんです」。すべての「ボックス」が埋まるまでには、まだ何年もかかるだろうとスミット氏は予想している。