第二次世界大戦開戦の時点ですでに時代遅れとなっていた、イギリス空軍(RAF)最後の複葉戦闘機、グロスター・グラディエーター。それにもかかわらず、この小さな複葉機は大戦初期において驚くべき活躍を見せた。初陣は遠く中国で、日本軍との戦いであった。しかし、この名機が真の名声を手にしたのは、地中海の要衝・マルタ島においてである。
開発から実戦配備まで
グラディエーターは1934年、試作機S.S.37として初飛行を行った。1936年に「グラディエーターI」として制式化され、1937年からRAFの戦闘機部隊への配備が始まった。グラディエーターI、II、そして艦上型のシーグラディエーターを合わせ、総計767機が生産されている。うち216機はベルギー、中国、エジプト、フィンランド、ギリシャ、イラク、アイルランド、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、ポルトガル、南アフリカ、スウェーデンなど各国へ輸出または供与された。
マルタ島の防空 ―「信仰」「希望」「博愛」
グラディエーターは1938年、中国で初の撃墜記録を達成した。フィンランドでも、フィンランド軍およびスウェーデン義勇兵の手で優れた戦果を挙げている。しかしその活躍が伝説となったのは、戦時プロパガンダの側面もあって、マルタ島での戦いである。
マルタに残された3機のグラディエーターには、「信仰(Faith)」「希望(Hope)」「博愛(Charity)」と命名された。これは聖ソフィアの殉教した娘たちに由来する名前であり、枢軸国という「闇の勢力」に対する島の抵抗の象徴となった。実際の経緯はそこまでロマンチックなものではないが、一時期、ごく少数のグラディエーターがマルタ防衛の重担を担っていたのは紛れもない事実である。
臨時飛行隊の結成
1940年4月18日、航空母艦グローリアスは数機のシーグラディエーターをマルタに揚陸した。これらの機体により臨時の飛行隊が編成されたが、機数については資料により4機、6機、8機、さらには10機と諸説あり、一部は予備部品取り用とされた。
当初のパイロットはマーティン大尉、バージ中尉、そしてウッズ中尉らであった。1940年6月10日、イタリアが連合国に宣戦布告すると飛行隊は即座に警戒態勢に入った。翌日には最初のイタリア爆撃機群が出現し、サヴォイアS.79の編隊に対し、バージとウッズの操縦する2機のグラディエーターが離昇した。
最初の戦果
グラディエーターは爆撃機1機に損傷を与え、さらに護衛のマッキC.200戦闘機1機をも破った。高速のイタリア爆撃機の迎撃に奔走しながら、通常は数的・性能的に優位に立つイタリア戦闘機とも渡り合ったのである。この間、事故で2機を失ったが、新たに2機が組み上げられ、戦力は維持された。
6月22日の午後、バージとウッズの操縦する2機がS.79爆撃機1機を撃墜。翌日には再び爆撃機襲来への対応が求められ、追撃戦の末にバージがC.200戦闘機1機を撃墜した。
7月31日にはウッズがイタリアの複葉戦闘機フィアットCR.42を撃墜した。ただし同じ空戦でバーバー中尉のグラディエーターが被弾墜落し、彼は重傷を負った。この機体は、敵の攻撃によって失われた唯一のグラディエーターとなった。
ハリケーンの到着と最後の出撃
その頃、最初のハリケーン戦闘機が島に到着し、グラディエーターとともに第261飛行隊が編成された。グラディエーターの次の戦果は11月初旬のもので、バーツほか2名のパイロットが8機のCR.42と交戦し、1機を撃墜、1機に損傷を与えた。
その後、より高性能な新型戦闘機が続々と到着すると、グラディエーターは第一線から退き、支援任務に回された。マルタでの最後の作戦飛行は1942年1月の偵察任務であった。なお、地中海ではもう一つの臨時グラディエーター部隊が航空母艦イーグルから運用され、輝かしい戦歴を刻んでいることにも触れておきたい。
グラディエーターがマルタに残したもの
マルタのグラディエーターたちは、圧倒的に優勢な敵を相手に、持ちうる限りの力を尽くして戦った。撃墜数こそ多くなかったが、マルタが無防備ではないことを敵に知らしめ、数多くの敵襲を迎撃した。何よりも、旧式の複葉戦闘機とはいえ、イタリア軍に好き放題に爆撃させるわけにはいかないという姿を示すことで、イギリス軍将兵のみならず島民の士気を大きく高めたのである。「古臭い」複葉戦闘機であっても、立ち向かう意志さえあれば十分に戦えるのだということを。
グロスター・グラディエーター 主要諸元
- 形式:単座複葉戦闘機
- 全長:8.38m
- 翼幅:9.85m
- エンジン:ブリストル マーキュリー VII A / IX / IXS(840馬力)
- 重量:空虚重量1,565kg/全備重量2,155kg
- 最高速度:407km/h
- 航続距離:708km
- 上昇率:約700m/分
- 実用上限高度:10,600m
- 武装:初期型71機はブローニング7.7mm機銃2丁+ルイス7.7mm機銃2丁、以降の生産機はブローニング7.7mm(0.303インチ)機銃4丁
グラディエーターN5520「Faith(信仰)」、1940年。ブレニム爆撃機から流用した3翅プロペラを装備している。
現在の「Faith」。主翼を外された姿で、マルタの博物館に展示されている。