世界史

歴史物語

  • 中世の食卓に並んだ鶴――1300年代のキッチンと古のレシピ

    1300年代のヨーロッパのキッチンでは、鶴が非常に人気の高い食材でした。今日では想像も及ばないかもしれませんが、中世の食卓にとって鶴はごく身近なごちそうだったのです。 時代とともに変わる「食の好み」 食の嗜好は、各民族の文化と密接に結びついており、他のあらゆるものと同じように、時代とともに深く変化してきました。 だからこそ、過去の世紀には、今日私たちが(決して間違いではなく)グロテスクだと感じるような料理を口にすることが、まったく普通の、むしろ好まれた習慣だったとしても、何ら不思議ではありません。 13世紀トスカーナの料理書『料理の書』 有名な『料理の書(Libro de cocina)

  • 中世の痔の治療法とは?赤熱した鉄で焼くか、手で引き裂くか――過酷すぎる医療の実態

    中世の医療:治療が病気より恐ろしい時代 中世に痔(そしてその他の病気も)で苦しむというのは、想像を絶するほど過酷な経験だったに違いありません。 当時は適切な科学的知識が乏しく、使える医療器具も不十分でした。そのため医師の仕事は決して容易ではなく、ましてや患者にとっては耐え難い試練となっていたのです。 とはいえ、病気自体は確実に存在していましたから、何らかの形で対処せざるを得ませんでした。 問題は、中世においては「治療法が病気そのものよりも悪い」ということがむしろ常態であり、患者にとっては文字通り拷問になっていたという点です。 現代とのあまりにも大きな違い さて、痔の話に戻りましょう。 今日で

  • ダンテ・アリギエーリはナルコレプシーだった?『神曲』に残された眠りの謎

    ダンテ・アリギエーリ(Dante Alighieri)てんかん説からナルコレプシー説へ19世紀、犯罪人類学の創始者として知られ、物議を醸したイタリアの学者チェーザレ・ロンブローゾ(Cesare Lombroso)は、ダンテ・アリギエーリがたびたび訴えていた突然の転倒や夢のような幻視について、「てんかん」の発作によるものだと解釈しました。しかし近年の研究によれば、この偉大な詩人が実際に患っていたのは、てんかんではなく「ナルコレプシー」だった可能性が指摘されています。ナルコレプシーとはどのような病気かナルコレプシーは、日中にどうすることもできない強烈な睡魔に襲われる睡眠障害です。患者は会話の途中や

  • 「神曲」の詩人ダンテ・アリギエーリは蚊に刺されてマラリアで亡くなった

    ダンテ・アリギエーリを描いたフレスコ画イタリア最大の詩人の命を奪ったのは、なんと一匹の蚊でした。ダンテ・アリギエーリはマラリアによってこの世を去ったのです。当時、この病気は決して珍しいものではなく、残念ながらほとんどの場合、致死的な転帰をたどる恐ろしい感染症でした。ラヴェンナでの晩年事の顛末は、おおむね次のようなものでした。ダンテはしばらく前からラヴェンナに身を寄せ、領主グイド・ダ・ポレンタの庇護を受けて暮らしていました。グイドはダンテに、ヴェネツィアのドージェ(総督)への外交使節という重要な任務を託しました。帰還の途上で運命が変わる美しい水の都ヴェネツィアからの帰り道、『神曲』の作者は湿地帯

  • 中世ヨーロッパの人肉食──歴史書『野蛮な食事』が明かす衝撃の実態(動画つき)

    数百年前の文献に描かれた人肉食の場面 先日、ある一冊の歴史書に関する情報が編集部のもとに届いた。そのテーマは、難解でありながら間違いなく珍しいもの──中世の人肉食(カニバリズム)である。 実は、人肉を食べるという行為は、少なくとも特定の状況下においては、数百年前のヨーロッパではそれほど珍しい出来事でもなければ、大きなスキャンダルに発展するようなことでもなかったようなのだ。 詳しく知りたい方は、アンジェリカ・A・モンタナリ(Angelica A. Montanari)氏の著作で、イル・ムリーノ(Il Mulino)社から刊行された『野蛮な食事──中世の人肉食』をぜひ手に取っていただきたい

  • パンドーロの物語:イタリアで最も愛されるクリスマス菓子の歴史

    メレガッティ社によるパンドーロの誕生パネトーネと並び、パンドーロは間違いなくイタリアのクリスマスの食卓に欠かせない、最も人気のあるデザートのひとつです。その歴史は長く、数多くの逸話や伝説に彩られています。13世紀の「ナダリン」から19世紀へ現在のようなふんわりとした柔らかさと高さのある姿になったのは19世紀のことであり、その起源は13世紀ヴェローナに伝わるクリスマス菓子「ナダリン(nadalin)」の進化にまで遡るとされています。一方、「パンドーロ」という名前については、ルネサンス期に繁栄を極めたヴェネツィア共和国の時代に由来するという説が有力です。当時の食文化の中には、「パン・デ・オーロ(p

  • 中世のクリスマスレシピ:ニンニクのトルタ「トルタ・ダリオ」

    中世の晩餐の様子クリスマスに楽しむ古のレシピシリーズ今年も昨年と同様、クリスマスシーズンに合わせて、「Pills of History(歴史のひろば)」では古のクリスマスレシピシリーズをお届けします。サイト利用者の皆さまからご好評をいただき続けている人気テーマです。第一弾としてご紹介するのは、ニンニクのトルタ「トルタ・ダリオ(Torta dagli)」。中世イタリア、とりわけトスカーナ地方で親しまれていた塩味のパイで、クリスマスなど祝祭日の食卓を彩る定番料理でした。ニンニクは当時、薬効食材としても珍重されており、こうしたトルタは庶民から貴族まで幅広く愛されたといわれています。中世の宴会の様子。

  • 中世の有毒料理――富が招いた鉛中毒の悲劇

    裕福さが招いた思わぬ悲劇裕福であることが必ずしも幸せにつながるとは限らない。これは現代だけでなく、中世においても同様だった。中世ヨーロッパでは、琺瑯(ホーロー)仕上げの皿やグラスを使って食事ができたのは、ごく一部の最上流階級の人々だけだった。豪華な宴席では、こうした美しく彩られた食器が富と権力の象徴として振る舞われていたのである。美しさの裏に潜む危険しかし、これらの洗練された食器には、当時の人々が知り得なかった重大な欠陥があった。琺瑯の釉薬には大量の鉛が含まれていたのだ。鉛は、特に塩気の強い料理や、ワイン・酢を使った酸味のある食品と接触すると、容易に溶け出して食べ物の中へ移行し、食事のたびに体

  • 中世の味を再現!マエストロ・マルティーノの「カルボナータ」

    中世の食卓に並ぶ料理。ここでご紹介するのは、15世紀イタリアを代表する料理人マエストロ・マルティーノが伝えた「カルボナータ」です。現代のパスタ料理「カルボナーラ」とは異なり、当時のカルボナータは塩漬け豚肉を炭火で焼き上げる料理。甘いスパイスと柑橘の酸味を合わせた、中世ならではの味わいが魅力です。祝日のメニューにぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。材料(目安)塩漬けベーコン(パンチェッタ):厚さ約5mmのスライス8枚砂糖:適量シナモン(肉桂):適量パセリ:適量苦オレンジの絞り汁:適量(手に入らない場合はオレンジ1個+レモン1個の汁で代用できます)作り方ベーコンのスライスをグリル板または熱した焼き

  • パネトーネにまつわる伝説と謎:イタリアのクリスマスケーキの起源を探る

    パネトーネをめぐる数々の伝説 写真は、かつてモッタ(Motta)社から販売されていたパネトーネの古いパッケージです。 イタリアで最も人気のあるクリスマスケーキであるパネトーネには、古くから数多くの伝説や噂が語り継がれてきました。その影響は名前の由来にまで及んでおり、現在でも複数の異なる版本が存在し、いずれも確かな証拠によって裏付けることが難しいのが実情です。 パネトーネと、ヴェローナ発祥のクリスマスケーキパンドーロ(Pandoro)について、私たちがほぼ確実なこととして知っているのは、かつてその製造が一種の神聖な儀式であったという点です。パネトーネ作りの際には、家長が必ず立ち会って工程を見守

  • 中世後期から近代までの男女のファッションの変遷

    中世後期の男性ファッション中世後期、15世紀頃から、それまで男女の間で大きな違いが見られなかったファッションは、性別のアイデンティティを強調するようになり、男性と女性それぞれに特徴的なスタイルへと進化していきました。男性たちは長くゆったりとしたドレープ性のある衣服を身につけるのをやめ、そうした服装は聖職者、高齢者、子どもといった特定の人々だけが着るものとなりました。一方、女性たちはスカートやロングドレスをほぼ専ら身につけるようになったのです。当時の男性の典型的な服装は、ダブレットと呼ばれる短く詰め物をした上衣と、ホーズ(タイツ状のズボン)でした。ホーズは脚の付け根までを覆う2本の体に密着する布

  • マスカルポーネの起源は中世にあった――知られざる800年の歴史

    本記事は、美食をテーマとしたエミリアーノ・アミーチ(Emiliano Amici)氏による寄稿で、同氏のブログ「sguardosulmedioevo.org」より転載したものです。 中世嫌いの人こそ、ティラミスを食べている? 中世を毛嫌いする人たちも、ティラミスを口にしているのではないだろうか。こう書くのには理由がある。興味深いテーマを探し求めていた筆者がふと出会ったのが、こんな豆知識だったのだ。マスカルポーネにも中世起源の歴史があるというのである。そう、「暗黒時代」と呼ばれたあの中世に。 マスカルポーネとは何か マスカルポーネとは、生クリーム(乳脂)を酸で凝固させて作るフレッシュタイプの

  • 中世のオニオンサラダ|マルティーノ師の料理書から蘇る一品

    中世の台所の様子中世の料理書から蘇る「玉ねぎのサラダ」今回は、15世紀イタリアを代表する料理人マエストロ・マルティーノ(Maestro Martino)による著名な料理書『リブロ・デ・アルテ・コクイナリア(Libro de Arte Coquinaria)』に収録された玉ねぎのサラダのレシピをご紹介します。この記事は、中世の歴史に特化したサイトsguardosulmedioevo.orgよりお届けするものです。記事の執筆者は、同サイトの創設者兼編集者であるエミリアーノ・アミーチ(Emiliano Amici)氏。親切で建設的なご協力に心より感謝申し上げます。古い料理レシピの記録ジビエだけではな

  • 中世の料理レシピ「座りキャベツ」~イタリア・バジリカータ地方の伝統的なセコンド料理~

    中世の台所に立つ女性たち中世から受け継がれる素朴な一皿ここでご紹介するのは、中世の時代に食されていた典型的なセコンド・ピアット(第二の主菜)のオリジナルレシピです。この記事は、中世史を専門とするエミリアーノ・アミーチ氏のブログ「sguardosulmedioevo.org」からの転載となります。中世の料理「座りキャベツ」という名前の由来この料理は、イタリア南部バジリカータ州にある中世の町アチェレンツァが発祥とされています。そのユニークな名前の由来は、調理の様子にあります。煮込んでいる間に、キャベツがまるで鍋底に腰を下ろすように静かに沈んでいくのです。そして、キャベツが完全に「座った」状態になっ

  • 料理の歴史:ミートボールの起源は中世イタリアにあった?

    今日私たちに馴染み深いミートボール――肉を丸めて作るあの美味しい一品。その起源は、なんと中世〜ルネサンス期のイタリアにまでさかのぼることが分かっています。本記事では、中世史ブログ「Sguardo sul Medioevo(sguardosulmedioevo.org)」のエミリアーノ・アミーチ氏による興味深い考察をもとに、ミートボール誕生の物語をたどっていきます。 中世の食文化や歴史に関心をお持ちの方は、ぜひ元サイトも覗いてみてください。知られざる情報や豆知識が詰まった、まさに宝庫のようなサイトです。 ミートボールとはどんな料理? ミートボールは、肉にスパイスを加え、卵・パン粉・小麦粉といっ

  • プーリア州チェーリエ・メッサーピカの岩窟教会「マドンナ・デッラ・グロッタ教会」の歴史と建築

    イタリア南部プーリア州ブリンディジ県チェーリエ・メッサーピカにあるマドンナ・デッラ・グロッタ教会(Chiesa della Madonna della Grotta)は、歴史的・文化的・建築的な観点から、プーリア州のみならず南イタリア全体で最も興味深い場所の一つとされる岩窟教会です。本記事は、ウェブサイト www.brindisimedievale.blogspot.com の管理人であるピエルルイージ・パパ(Pierluigi Papa)氏による寄稿をもとに構成しています。訪れる価値のある、そして広く知られるべき貴重な史跡です。イトリ渓谷の心臓部に佇む岩窟教会イトリ渓谷(Valle dItr

  • 「大学」という言葉の由来――ラテン語universitasからボローニャ大学まで

    イタリア最古の大学とされるボローニャ大学の紋章ラテン語「ウニウェルシタス」が意味していたもの古代において、ラテン語の「ウニウェルシタス(universitas)」は、同じ活動や同じ関心によって結ばれた人々の集まり、すなわち組合(ギルド)を指す言葉でした。その目的は非常に明確で、構成員を守ることにありました。つまり当時の「ウニウェルシタス」は、法人(コーポレーション)と実質的に同じものだったのです。商人や職人が自らの権利と利益を守るために結成した組合と、学者たちの集団は、法的な性格としてはほぼ同じ存在でした。現代の大学へとつながる理念今日私たちが理解するような大学は、文化や知識に関心を持つすべて

  • 中世の食卓をのぞく『中世の台所――食材、レシピ、味わい』

    書籍『中世の台所――食材、レシピ、味わい』の表紙「Pills of History(歴史の秘薬)」では、これまで常に過去の食文化と、時代を超えた味覚や美食文化の変遷に注目してきました。そんな私たちにとって嬉しいことに、文化団体「ムーサの贈り物(I Doni Delle Muse)」(idonidellemuseedizioni.wordpress.com)から、中世料理を専門に扱った書籍が刊行されました。マルコ・ガヴィオ・デ・ルベイス(Marco Gavio de Rubeis)氏によって執筆された本書のタイトルは、『中世の台所――食材、レシピ、味わい』。以下に、出版社から届いた書誌情報と裏表

  • パネットーネの歴史~ミラノ発祥のクリスマスケーキの起源と伝説

    モッタ社のパネットーネの古い広告(画像提供:ciabattine.net) クリスマスが近づくこの季節、私たちはパネットーネとパンドーロ――大人から子供まで愛される、クリスマスの食卓を代表する2つのデザート――の遠い起源を探ってみることにしました。 ミラノ生まれの伝統菓子 調べてみると、パネットーネはイタリア・ミラノ発祥のお菓子で、なんと13世紀にはすでに存在していたと考えられています。ただし、当時の姿は現在私たちが知っているものとは大きく異なり、イースト、ハチミツ、レーズン、カボチャを練り込んだ「贅沢なパン」のようなものでした。 1600年代には小麦粉とブドウを使った素朴なフォカッチャのよ

  • セブン・アンド・ハーフ(セッテ・エ・メッゾ)の歴史:ナポリ起源から現代まで

    文化と遊び:カードゲームが映す時代の姿文化とは何でしょうか。イタリアを代表する辞典「トレッカーニ」によれば、文化とは「学問と経験を通じて人が獲得した知的知識の総体」、あるいは「自分自身と自分の世界に対する意識」と定義されます。興味深い定義ですが、どこか限定的にも感じられます。実は、文化のもうひとつの重要な要素として、ある土地の人々が自由な時間をどう過ごすかという点が挙げられます。その中でも遊び(ゲーム)は決して無視できない存在です。ゲームは常に、特定の時代の習慣や世相を色濃く反映してきたからです。世界的に見ると、イタリアはこの観点からしばしばステレオタイプ的に捉えられがちです。サッカーこそ国民

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